カイブツ その壱
AM 2:00
葉鳥殲滅戦の開始時刻。
ピエール・志村、トール・ハンマー、そしてニーズの三人は標的のいるであろう病院跡に足を踏み入れていた。
チームワークが問われるこういった大掛かりな作戦行動において、彼女達の考えるチームワークはドワイトの部下である特務兵達のそれとは一線を隠していた。
確かに彼女達のチームに配属された数名はドワイトから直に彼女達のアシストをせよと命を受けている。
彼等にしてみれば過酷な戦闘訓練や膨大な学習量を要する専門知識を得て、メンタル面でも必要以上のものを要求され、その訓練についていけず数多の脱落者の中から残った精鋭という、彼等なりに積み上げた誇りとプライドがある。
だというのに魔術師を名乗るというだけの連中の援護を命じられ、あまつさえ当の魔術師達は自分達の援護など不要と切り捨てたのだ。
彼等の胸中に沸きあがってくるものは嫌悪以外の何物でもなかった。
そんな彼等の心中を、彼等を置き去りにした三人も察していなかったわけでもないのだが、先の戦局がどうなるかわからない以上。
より早く、より短時間に、より確実に敵を倒す事を考慮するならば魔術師達にとって彼等は邪魔でしなく、戦力外と通告する他無かった。
しかし、彼等とてチームワークそのものを無視しているわけではない。
この三人が主だって戦うというのには理由があり、彼らの能力と相性、その戦い方を考えると理にかなった作戦であり、布陣なのだ。
それにこの三人は一緒に行動する必要性もあった。
得てして彼等三人にしてみればそうなるのだろうが、今回の殲滅戦は各所のチームの戦力のバランスが良いとはニーズは思えなかった。
敵の戦力の予想という耳障りの良い言葉、立場としてはそのガーブの意見に従うしかないというジレンマ。
そこに苦渋を飲みつつも彼等はこのバランスの悪いチームの振り分けに何か意図的な何かをニーズは感じていた。
ガーブが何か企んでいるのか、それともそのもっと上かと。
戦力が分散する事で各々の受け持つブロックで成功、不成功によって首謀者である黒江、そしてその背後にいるであろうメイロンに作戦の存在を知られるデメリットも考えられる。殲滅戦という名目の作戦であり、表面上はそこで敵の間引きができれば成功に感じてしまうが、頭である黒江達を潰さなければ作戦の本懐は遂げられないのだ。
そんな作戦の根底を覆す采配をしているガーブの思惑がどうであれ、彼女達は作戦を遂行するうえでベストを尽くすしかない。
結局は常識の範疇から逸した力を持つ三人にお目付けがついているのはチームとしての機能としてではなく、単純にガーブが三人を信頼していないからである。
ガーブはそんな思惑をひた隠しにしていたが、そのガーブの思惑など三人はこの通り見とおしているし。ガーブ自身もこの三人に自分の感情が見透かされているなど承知の上だった。
そのきな臭い配慮が三人にしてみれば気に入らず、またガーブの考えを深読みするならば自分達がイレギュラーな事をするのもまた想定の範囲として考えているだろうという事。
ならば大人げないと判っていてもガーブの言いなりなるのは癪に触る故に、自分達だけで集まってやろうと至ったのである。
そんな心理戦というよりも意地の張り合いが上であるという事などはニーズ達についてきた特務兵達の知る良しではない。
様々な思惑が渦巻く中、その場にいた全員の目に怪物の姿が目に入る。
「ホリィシット!」
特務兵達は反射的に威風堂々と歩を進めるニーズ達の前に現れた敵にAK-33ライフルを向ける。
黒光りする七十六センチの銃身。
人体工学的に肩にフィットするように設計された銃身は初速2800キロを誇る銃弾を秒間8連発を苦も無く可能にし、その破壊力は三十メートルの距離をおいた場合でさえ厚さ三センチのコンクリートの壁を貫通する。
その携行しうる現代兵器の最高峰が一斉に銃身を連ねるのだ、その動きは実に訓練されており、少ないであろう実戦経験の少なさを感じさせない見事なものであった。
にも関わらず当のニーズ達は飄々としており、やはりわずらわしいもの以外の何物でもなかった。
「何よ、うっさいな!」
ニーズが不機嫌そうな顔を見せるのは、気合でもなんでもなくガーブの思惑や寝不足であるところが大きくもあるが、何よりもガーブに自身の実力があまりにも過小評価されているであろう事が気に入らなかった。
もっともそんなニーズの心境など特務兵達は知る由もなく、それを察する事ができるピエールとトールだけは子供をあやすようにニーズをどうどうとたしなめた。
「おい、お前達。うちのお姫さまは虫の居所がわるいんだ、そっとしておいてやれよ」
「しかし、把握しているとはいえ敵はどこに潜んでいるかわかりません。我々も突入します」
兵の一人の真っ当な意見をニーズはバッサリと切り捨てた。
「大丈夫だって、それに作戦が始ったら巻きで動かないといけないんでしょ。なら節約できる時間は節約しとかないと。ただでさえ私達は受け持ちが多いんだから」
「あのオッサン、俺達を信用してないくせに人使いは荒いよな」
「お役所仕事なんて……得てしてそんなものです……」
「俺達も同じような立場だけどな、えひゃひゃひゃ」
豪快に笑うピエールは、そう笑いながら羽織っていた法衣を脱ぎ捨てた。




