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現の責任  作者: 面沢銀
奇妙な共闘編 ~傀儡学園~
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マモナク その1



 繰り返される日常を噛み締める

 永久に続くと錯覚してしまう平凡は消耗品であり

 日を追う事に劣化する

 とりわけ仮面を着けて生きる者のそれこそ

 何よりも脆く、そして直し難い





 現の証拠 第五話 マモナク




 

 裏辺の子供達との戦いを終えた直後。

 時刻としては深夜三時、ひょろつく敦也を支えながら事務所に戻ると、玄関にはある男の姿があった。

 羽織袴に山高帽子という明治初期の日本人を表すような姿、それだけでも関わり合いたくない要素としては十分。


 さらにそこに刈り上げた金髪と青い瞳の外国人という要素と深夜3時という状況が加算されているのだから怪しさは口きり一杯を通り越して溢れ出している。

 疲れていてもいなくても会いたいとは蚊ほども思わない男、ダニエル・グッドマンがそこにいたのだ。


「いやはやお疲れ様です、事の流れを一分始終拝見させていただきました。その状況ですから手をお貸ししようとも思いましたが、そこは日本人好みに言うのなら若い二人におまかせというところで」


 嘲笑を含んだ言いまわしでダニエルは俺達へと歩を進める。


「しかし、あなた達がよもや破れるとよもや思っていませんでした。これは彼等への認識を改めた方がいいのかもしれませんね」


「覗きとはやはり趣味が悪いな、それでお前何の用だ? 気の毒だがニーズは所用でいないぞ」


「いえいえ、確かにニーズさんにも用はあったりするんですが今日は長瀬さんにお話があって伺った次第なんですよ」


「僕に……ですか?」


 そう気の抜けた返事をすると、ダニエルは俺の肩に寄りかかる敦也を見下ろした。

 ダニエルの背丈は百八十センチを裕に越えている、飄々とした言いまわしと行動にばかり目がいってしまうが、広い肩幅や着物の上からでもその厚みがわかるほど発達した大胸筋といいダニエルに見下ろされるとかなりの威圧感がある。


 だが、そんな風貌よりも警戒すべきはやはりその人品卑しい性格なのだ。

 この男の持ってくる話など良い話しであった試しがない、それは敦也もわかっている事なのだがタチの悪い事に、良い話しではなくても関わらざるを得ず、それでいて結果としてこちらに有益な情報であるのだから無碍に追い返す事もできない。


 目をつけられたら逃げる事など不可能、それがダニエル・グッドマンに話しを持ちかけられるという事なのだ。


「長瀬さんが藤咲正美さんに頼んでいる事、あれはもう止めさせた方がいい。でないとお互い辛い事になりますよ。そういう意味としては伊達さんにも縁のある話しなのですが、あなたの場合はもうケリがついていますからね」


「ちょっと、どういう意味なんですか?」


 ダニエルの要領を得ない、予言じみた言葉に敦也が食い下がる。

 しかし、ダニエルはそれを切って捨てるように冷笑と共に返事をする。


「過去を捨てた代償がこれまでの生活、その捨てた過去を取り戻そうというのだからまた代償を払う事になりますよという警告です。これは仕事ではなく、あくまで私の善意なのであしからず。善意に多くを求めるのは卑しい人間のする事でしょう」


「なら聞き方を変えます、僕の過去を調べる事で藤咲さんが危険な目にあうって事ですよね」


「それは言わずもがな、そもそも長瀬さん。村一つがなくなる大虐殺を調べさせる事に危機感を持っていなかったのでしょうか? それなら呪うはその思考を築いてしまったぬるま湯のようなこれまででしょうね」


 ダニエルは再び微笑む。

 ダニエルは警告だと言ったが、これは警告なんかではなく示唆だ。

 この人の皮を被った悪魔は、藤咲がもう危険な状況から逃れられないという今になるのを計って敦也の前に現れた。

 確かに事が起きる前、起きる前ではあるがもう予防はできない。だからはやく行動しろそういう事なのだ。


「お前、いつから知っていた?」


 俺の言葉の意味を察してか、ダニエルは満足そうに微笑んだ。


「いつからと問われれば、十数年前とお答えしますか。私はあなた達の村が焼け落ちていくその現場に居あわせていたのですから」


「なん……だって……?」


 和装に山高帽子の悪魔は笑う。


「あくまで居合わせただけです、ショーは観客が居て初めてショーと成り得るのですから。傍観者の視線で言わせてもらえればあの場には四つの悪意が満ちていました。ああ、葵藤寂連を含めれば五つの悪意ですかね。物事とおうのは得てして一枚岩ではないのですよ」


「ふざけるな、どういう事なのかちゃんと説明しろ!」


 激昂する敦也。

 敦也は村の事件になると酷く心を乱す。

 自分の親や友人、その全てを失った事件をこんな軽い気持で娯楽のように語られれば腹も立つだろう。


 ならばおかしいのは同じ過去を持っているにもかかわらず、こんなにも落ちついた気持でダニエルの話しを聞いている俺の方なのか。

 飛びかかろうとする勢いの敦也とは対照的に、ダニエルは相変わらず満足そうに柔らかな笑みを浮かべていた。


 それは何年も前に樽に詰めたワインの封を解いたような。

 注ぐ事によって出でる音、液体の色や動き、立ち込める匂い。

 口に含むまでを存分に楽しみ、嬉しさと楽しさを味わいつつなおまだ口には含まない、その焦れをダニエルは楽しんでいるようだった。


「説明、説明ですか……。困りましたね、説明を求められてもあくまで私は傍観者なので回答できるような事などはございません。私はあくまでその場にいただけなので彼等の秘めた事情や思いは存じませんので」


 ダニエルの言葉に嘘や偽りはない。

 悪魔は事実しか言わず、されど肝心な部分は口にしない。

 何よりも誠実で何よりも悪意を持った言葉を放つ、それが事実ならばやはりダニエルは悪魔に相違ないだろう。


「その辺はニーズさんに関わりがある事ですからね、彼女と話しをしてみるといいでしょう。それに私に突っかかる暇があるのでしたら早急に藤咲正美に話を伺っておいた方がよろしいかと。さらに、お節介を一つ加えるなら、黒江は君達と裏辺の子供達のどちらかの全滅を期待していたようですので、その折り合いやケアも考えた方がよろしいでしょう。時は金なりです、良い言葉ですよね。」


 言ってダニエルはずっと崩さない笑みを満足気という形に変えると踵を返して俺達の前から去っていく。

 呼び止めるにしてもどんな声をかけるべきなのか、たとえどんな言葉を持ってしてもダニエルの口から確信めいた事は聞く事はできないだろう。

 彼が口をする時は一つだけ。


「呼び止めてこないとはニーズさんの指導が良いという証拠ですね。私も君達を気に入っておりますので、敬意を評してにもう一つお教えしましょう。君達が戦う相手は違う(・・・・・・・・・・)、だが同じである(・・・・・・・)。とね」


 それのどこがご褒美なのかはわからないがダニエルは振り帰ってそう言った。

 何が言いたいのかはわからない、されどとても大事な事をこの悪魔は言ったのだろうという確信めいた思いが俺の胸に渦巻いていた。


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