オイノリ その続
僕が目を覚ました時は全部終わっていた。
いつかと同じようにニーズの事務所で目を覚まし、いつかと違ったのは僕の目覚めを見取ってくれたのは不死子さんだった。
それからはいろいろな事が流れるようでてんてこ舞いだった。
ニーズはとても動ける体ではなかったし、事件の火は思った以上に大きくて。さらに何故か正宗がいなくなってしまったから仕事は倍増だった。
力を使いすぎて少し入院したピエールさんやワイナモイネンさんは退院すると同時にやっぱり仕事で帰ってしまっていたし。
トールさんの怪我はまだ治っておらず、入院したままだったけど。
エルさんは泣いて騒いだけれど、教会の方にもいろいろあるらしく帰っていった。
そして帰るエルさんにくっ付いて正宗が一緒にバチカンの教会にお世話になると聞いたのは正宗がバチカンに飛んでから一週間も経った今日の事だった。
「タ、タマは知ってると思ってたよ」
「そりゃそうだよ、僕がタマちゃんだったらそう思う」
「わっかんないなー、どうしてタマ達にだけ挨拶していっちゃったんだろう?」
「僕もわからない、不死子さん達にもなんだか口止めしてたみたいだし。正宗にも何か理由があったんだよ、あの時だってそうだし」
「敦也を斬り殺したってやつ?」
「うん、さすがに理由が無くちゃやらないしね。爆弾を止めるために必要だったとか」
「信頼しあってるんだね、ちょっと妬けちゃう」
「そう言われると……ゴメン」
「ううん、タマもゴメン。ちょっとはしゃぎ過ぎた」
タマちゃんは言いながら僕の服を引っ張った。
「ねぇ、アツヤ。私と一つ約束してほしいんだ」
「何だい?」
「アツヤ……私ね……」
タマちゃんはボソボソと耳打ちしたあと、震えた子猫のような顔で僕を見る。
僕がその約束を快く受け入れると、タマちゃんはうって変わって太陽のような笑顔を見せてくれた。
「お二人ともお元気そうで何よりです」
「華舞雅城さん」
「ちーちゃん」
華舞雅城さんの右腕は肘から下が無くなっており、左の額には大きな絆創膏が張られていた。
「今回の件ではお世話になりました。ですから一言お礼が言いたくで、あなた方と戦えた事は私の誇りです。縁があったらまたお会いしましょう」
「こちらこそ、ありがとう華舞雅城さん」
僕は無事な方の華舞雅城さんの手を握る。
「伊達さんにもお礼がいいたいのですが」
「正宗ならバチカンに旅立ちました」
「教会の、それなら仕事で一緒になる事もあるかもしれませんね」
華舞雅城さんはそこで大きなため息をついた。
「私は今回の事でいろいろ考えてしまいました。私達はただの人で人でない力を持っています。それを持たざる人のために使う。まるで罰を受けているように。それでも人を救えない、私達だけじゃなく誰であれ人を救えない。仏教の教えの一つに生きる事が罪という教えもあります、ならば私達は皆が咎人なのかと」
華舞雅城さんの苦悩の言葉に対して、僕は思いがけない言葉を言っていた。
「難しい事はわからないけど、きっとこの世の全ての人がいい人なんだよ。そうでなきゃ嘘だ。だから、もし何かあるなら僕たちのせめて回りだけでも……何ていうか……」
ガーブの言っていた言葉を使いたくないけど使って、それでも上手く纏められない。
そんなしどろもどろになる僕を見て、最初に会った時には思いもつかない優しい笑顔で華舞雅城さんは微笑んだ。
「そうですね、良くも悪くも私達は強くならなくてはなりませんね。まだまだ、私達は酸いも甘いも経験不足です。長瀬さん、前から思ってましたけど考えが年寄りくさいですよね?」
「あ、それはタマも思う。アツヤはもう少しファンキーになった方がいいと思うんだ」
二人の酷い言葉を聞きながら僕は自然に微笑んでいた。
まだ、事件の余波は収まらないだろう。
自分の出生にも、もっと向き合わないといけない。
それが藤崎さんへの感謝でもあり、責任でもある。
だからまだまだ頑張ってみようと思う。それがきっと正宗のためでもあるだろうし、電話には何だかしばらく出てくれなさそうだから落ち着いたら手紙を書こう。
何があっても君の帰ってくる場所はここなんだよと書き記して。
現の責任 最終話 トガビト
了