オイノリ その壱
手詰まりという単語をこれほどまでに感じた事はない。
どのような体勢からでも、どのような投げ方でも、そのガーブから放たれた弾道は僕をめがけて飛んできた。
幸いなのは完全に必中というわけではなく、単純に僕目掛けて飛んでくるというだけであり直撃は少なく、仮に直撃したとしても致命傷にはなりえない。
それでも一発が当たれば骨折は免れない破壊力を持っているのだ、万が一にも頭部には当たれない。
タイムオーバーでも構わないというガーブのスタンスと、長時間は戦えないのちう僕の条件はあまりにも噛みあわず、されども突破口は見えない。
「長瀬君、君もまた正義だよ。可能性だけで多くの人を殺す事はいけない事だ、だから君は私を止めるべきだ。だが、私もまた正義だ。きっと世の中はこういう正義で回っているのだよ正義は勝つ、当然だよこの世には正義しかいないのだから」
ガーブは相変わらずズレた事を言っている。
僕は一度だってそんな大それた事を考えたつもりはなくて、ただ出来ることやって、僕の周りの人を助けようと思ってここまできたんだ。
負けるわけにはいかない。
だからこそ僕だって死ぬわけにはいかないんだ、正宗やニーズさんに不死子さん。僕にかかわってくれた全員。それにタマちゃんが僕を待っている。
様子を伺い、気を張り直したところで視界を光が遮った。
あれほど言われた頭部の一撃を喰らうな、その約束が今破られた。
完全にブラックアウト。
自分の頭がどうなっているのかわからない、これまでの威力を思い出してみるに砕けた気もするし、単純に意識を失っただけかもしれない。
いや、こうやって考えられるのだから意識はあるのか?
それなら目が見えないのか、さもなくば死んでしまったのだろう。
過去に二回死んだからこれが三回目になる、三回も死ぬなんて人はそうはいないだろう。
死ぬ事がベテラン染みてきたからか、何やらおかしいと思い始めた。死はもっと全てを飲み込むような、こんな生易しいものではない。
だからこれは死ではない。
つまり、これは。
目にしたのはガーブが背中を向けて、僕から去っていくところ。
どうやら目がやられていただけのようだけど、それならば何でガーブは僕にとどめを差さないのだろうか?
罠だとしても、それに飛び込んでいかなければきっと勝ち目はない。
「うおおおお!」
僕の拳がガーブの肩を打ち抜く。
視界が定まらず、あてずっぽうに振りかぶった一発だったから急所に当たらなかったのは残念だ。
反撃に備えて構える僕は、そのガーブの驚きに満ちた表情に逆に驚かされた。
「まさか今の傷を再生したのか!? まさか脳を潰されて復活するとは!!」
次の言葉に僕は戦慄する。
「頭を粉微塵にしたというのに、さすが食人の村の生き残りといったところだな」
「どういう事だ!」
僕の言葉にガーブは再び驚いた顔を見せる。
「なるほど、自分がどういう存在かわ知らなかったという事か。なるほどあの藤咲という者の残したメモはそういう事か。ならば教えよう。あの村は不老不死を求めた者の集いし狂気の村。自身の生を残したまま不死と成す。表現するなら村一つが巨大な魔術の胎内。魂をより集め燃やし、一人として成す灰より生まれいずる使者。自分の能力を考えれば想像に容易いだろう。この国の言葉で言うところの不死鳥、西洋の言葉を使うならばフェニックス」
言葉を受けて息を飲む。
それ以上にガーブは俄然、生きる事に目覚めたような瞳を見せる。
「いや、もう良そう。不死という炎ではこの爆弾を持ってしても吹き消せるかどうか。全霊を持って最後に君を仕留めよう、完全ではない不死の炎。この爆弾が炸裂する瞬間までに吹き消してくれる。お互い最早時間はない、君一人では私を止められまい」
「いいや、二人だ」
なんという力強い言葉。
その言葉とは裏腹にボロボロの劇場の入り口に、満身創痍の正宗が立っていた。
「俺もあの村の生き残りでね、お前には借りがある」
『ああ、そうか』その言葉だけを継げてガーブは跳ねる、その動きを完全に察知して正宗は跳んだ。
僕では目に追うだけしかできない尋常じゃない速度の交錯の数々、ガーブの動きもそうだけどあんなに手負いの正宗がそれについていくあたり正宗の真の実力の凄まじさに立ちすくむ。
接近戦ではラチがあかないとガーブは間合いを放して光球を片手だというのに先程と同じだけの数を正宗に投擲する。
そしてそのことごとくを正宗は切り裂いた。
「敦也!」
正宗が距離を詰め刃を突きつける、僕はそれに拳を合わせる。
正宗を目にし、何かを悟ったのだろう、ガーブは僕を見る事は無かった。
代わりに正宗に狙いを絞る。
それを察して僕は正宗を庇うけど、さらにそれをガーブは見越していた
密度を強くし小さいながらも貫通性を持たせた光球の散弾が僕ごと正宗を貫く。
頭の中が真っ白になる僕を、正宗は強引に腕で押しのけると、ガーブの身体に刃が食込んだ。