(短編) あさがお - 1,200文字
梅雨入り前のある日、寝ていると夢を見た。
「この戸棚に置いてある種を育てて下さい」
夢の中の少女はそう言った。
少女は真っ白い肌に白いワンピースをまとい、髪は黒く長かった。
透き通った白い肌はまるで妖精のようであった。
その夢を見た直後なのか数時間経った後なのか、もしかすると数日間過ぎていたのかは解らないが、夜中に目が覚めた。
窓際の戸棚の中を調べてみると、たしかに黒い小さな種が一つ見つかった。
みかんの房を小さくしたような形の種。
朝顔の種のようであった。
翌日、植木鉢と土と受け皿を園芸店から買ってきて、日差しのいい窓側の棚の上に置き、水をやってみた。
数日後、植木鉢から芽が出た。
そして数日後、いびつにしたハートマークの様な双葉が開いた。
この独特な形からするとやはり朝顔の種だったようだ。
芽は数日で双葉本葉と育ち、既に芽とは言えない大きさにまで育っていた。
その後も大きく育ち、つるが出たので支柱を立ててみた。
つるは支柱を締め付けるように絡みつき、まっすぐに育った。
苗が育つのを見るとあの時の少女の顔を思い出し、とても幸せな気分になれた。
7月末になると苗はつぼみを付けた。
白いつぼみ。
夢の中の少女を思い出させる白いつぼみ。
少しうなだれた感じのつぼみは、あの夢の中の少女を思い出させる。
3日ほど経った朝、つぼみは大きな朝顔の花を咲かせた。
大きく開いた真っ白な朝顔の花は、こちらを見て微笑んでいるあの夢の中の少女に思えた。
その日の内に朝顔の花はしおれ、翌日にはつぼみの根元の子房を残して茶色く変色してしまった。
いとおしい少女が去ってしまったような気がして寂しく感じた。
そして子房は熟成し、9月の初めには茶色いがくが大きく反り返り種が弾けそうになるほど子房が大きくなった。
僕はその子房を指でほぐし中から種を取り出した。
中には6個の種が入っていた。
僕はその種を去ってしまった少女をいつくしむ様にそっと手にした。
その夜、また夢を見た。
少女が夢の中に現れ僕を見つめ「ありがとう」と言っている。
とても愛おしい。
いや、これは愛だ。
僕は彼女に恋している。
今日を逃してしまうと、もうその少女には二度と会えないような気がして、僕は彼女に僕の思い全てをぶつけてみた。
「きみのことが好きだ。すべてが欲しい」
焦っているのか気が動転しているのか、僕の口からはありえないレベルの臭い台詞しか出てこなかった。
「わたしもあなたの事が好き。朝顔の種の精の私の全てを見て、そして全てを喰らいつくして」
彼女の言葉ももかなりおかしい感じではあったが、僕と同じ気持ちと言う事だけは伝わってきた。
僕は欲望のおもむくまま、一糸まとわぬ彼女の全てを見て、そして彼女を僕の欲望で喰らいつくした。
彼女を存分に堪能し、すべてを済ませようとした時に彼女は僕に深い口づけを行ってきた。
彼女と僕の舌が絡み合い、彼女の唾液が僕の中に流れ込む。
僕は彼女の表情に不穏なものを感じたが既に手遅れであった。
僕は死んでから、朝顔の種には毒が有ることを知った。
初執筆の短編です。
文章力や内容等至らないところだらけとは思いますが、ご指導ご指摘をお願いします。