重大な決断
「まさに危機的状況だね。もし今、国債の金利が上昇したら大変な事になる」
鈴木総理は深刻な顔でそうつぶやいた。
「格付け会社、ムーミンズからはダブルAマイナスをさらに引き下げる可能性があると言ってます」
石塚金融担当相が相槌を打つ。
「国の借金はまもなく千兆円を突破。このままだと国債の発行もままならなくなりますよ」
少しイラついたように言ったのは山田政務官だった。
「となると、やはり・・・」
鈴木総理が重い決断をしようとした時、ひときわ明るい声がした。
「私によい考えがあります」
党役員の花岡議員だった。
その瞬間、その場にいた全員が眉をピクリと動かし、体の大きな元村政調会長が、花岡を会議室からつまみ出そうとした。
「まあまあ、いちおう聞きましょう」
温厚な鈴木がそれを制し、花岡に発言の機会を与えた。
「簡単ですよ。織田信長は家臣に与える国が無くなると茶器を与えました。日本では国債を買っているのが殆ど国民ですから、国債の償還代金を別のもので与えればいいんです」
「ほう・・・と、いうと?」
「政府がサイバー空間上に、もう一つの日本を作って、その家や土地を与えます」
「却下!」
「ではでは、固定利率0%、償還期限・千年の国債を二千兆円発行して、今までの発行された国債と交換するんです。あまった千兆円でリニアや海洋開発をすれば千年後にはものすごく豊かになって楽々償還!」
「ちょっと待て。そんなもの誰が引き受けるんだ」
石塚金融担当相が怒鳴った。
「もちろん日銀と国民です。利息の代わりにサイバー空間上の家や土地を与えれば・・・」
花岡の話を忍耐強く聞いていた鈴木が大きく息を吸いこんで怒鳴った。
「バケツを持って廊下に立ってろ!」
元村政調会長が、嫌がる花岡を追い出した。
「しかし、利率が高くなってくれば花岡の言った様な方法も有りかもしれませんよ」
山田政務官が苦笑しながら言った。
「イスラムのスクーク(イスラム法では金利を取ってはいけない事になっている)を真似て、金利の代わりに今後、日本が得られるであろう海洋資源の利権などを付与した、日本版スクークです」
「なるほど。しかしまあ、国債の借換え問題は別の機会に議論するとして、今行うべきは財政の健全化です。私としては、もし君達に異存がなければ消費税は10%で行きたいと思います」
鈴木総理は、廊下にバケツを持って立たされている花岡以外の全員を見回した。
会議の雰囲気はそれを了承したように見えた。
「決まりましたか?」
背後から声がした。
「ハイ、五年三組は閣議で消費税引き上げを決定しました」
総理役の鈴木加奈ちゃんが言った。
「そうですか。二組と四組は消費税引き上げに反対の決議を出しましたが、決議の結果はいいんです。みんなよく論議しましたね」
担任の沢村が満足そうに全員をねぎらった。
「消費税引き上げ反対、反対!」
廊下で花岡まさる君がまだ粘っていた。
( おしまい )