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薬師エノーは今日も頑張る 3

「ヒェー……、ヒェー……!」


エノーは少し前から目の回るような忙しさだった。

なんせこの小さな村で風邪が大流行し始めたのだ。

あちらが治ればこちらが倒れ、こちらが治ればそちらが倒れ……

昼はうがい手洗いをしながら薬をあちこちに届ける日々。

夜は次の日の薬を作っていてろくに眠れていない。

明らかなオーバーワークだった。


「なんでこの村光魔法使いも闇魔法使いも居ないんだよぉ!」


正確には光魔法使いは数年前までは居た。

しかし魔法の才能を見出されて今では大きな街の魔法学校に通っている。

光は浄化、闇は安らぎの眠り。

今、どちらもこの村に欲しくてたまらない存在だった。


「むしろ俺が看病してほしいよ……」


家に帰って、エノーは愚痴った。

いやここで恩を売りまくってればしばらくは皆食べ物分けてくれるけどね?

その前にもやしの俺が死んじゃうんだよね?

エノーはぼんやり考えた。

目がかすむ。でも、まだ風邪っぴきはたくさんいるのだ。

エノーはぼんやりしている場合じゃないと頬を叩いた。


「街がもっと近けりゃいいのに。もしくは箒が2人乗りできればな……」


叶わないことを呟きつつも、目線は薬瓶やすり鉢から外さない。

薬は強すぎれば毒にもなる。誤るわけにはいかなかった。


「また材料切れた……明日には取ってこないと……」


1日潰れる。そのことに苛つきを感じながらエノーは唇を噛んだ。



次の日は、陰キャのエノーにはきついほどの快晴だった。

あまりの家の中との差に、くらっとする。

しかし今日は足りない薬草を摘みに行かないと……

ここで役立たずだと、あの薬師何のためにいるの?と皆から思われてしまう……

エノーの後ろ向き思考はいつものことだが、今日は特に酷かった。

それでもふらふらと箒に乗ろうとしたその時


「待てよ、エノー!」


背後からかかる声があった。冒険者の陽キャだ。


「お前そんな顔色で、どこ行く気なんだよ!」

「……材料、切れた……摘みに行かないと……」

「その状態で行こうとするなアホ!」


陽キャはぐっと親指を立て、じぶんをさした。


「こういうときこそ冒険者を雇うべきだぜ!今日はなんとお代はタダ、お前は空いた1日、ちょっと休んでな!」


陽キャはニヤリと笑った。

エノーはろくに考えがまとまらず、とりあえず言われたことに頷いた。

エノーは聞かれるままに必要な材料を答えてしまい、陽キャは走って森へ向かってしまった。……よかったのかな……こんなこと……エノーは迷いながらも、ふらふら家へ帰った。

家の前には、3日ほど前にようやく回復した少女が何かを持って立っていた。

エノーの姿を見ると、慌てて駆け寄ってくる。


「……君、3日前に回復したばっかり……」

「何言ってるのエノーさん!私よりエノーさんのほうがよっぽど体調がわるそうだわ!」


ほら家の鍵開けて開けて。少女に言われるままに、家の鍵を開ける。


「エノーさんは寝てて!今日はお礼に鶏肉と根菜を持ってきたんだけど……スープにしちゃうから!今日はエノーさんの休日!分かった!?」

「でも……まだ風邪が流行って……」

「分かった!?」

「ハイ………」


陰キャには苦手なものが3つある。陽キャ。太陽。そして女の子だ。エノーに勝てるわけもなかった。



その日は1日こんこんと眠り続けてーー目が覚めたら、テーブルのうえに2つのメモと、素材と、家の鍵が置かれていた。


「エノーへ!素材、あるだけ持ってきた!感謝しろよ?」

「エノーさんへ。よく眠っているから起こすのは辞めました。スープ、食べてくださいね!」


2つのメモを読んで、エノーは少しだけ、目尻が熱くなった。


「よし……もうちょっと……頑張ろ。」


エノーは再びすり鉢や薬瓶に向かい合い始めた。



そして、1週間後。

村人たちは、全員回復していた。……エノーは再びヘロヘロになっていたが。


「今回で知ったがエノーって意外と無茶するんだなぁ。」

「他の皆風邪でしょうがないし……」

「はい、エノーさんの話は聞きません!おじや食べてください!」

「おいしいけど………」


エノーの目論見通り、村人からはたくさん感謝されたし、しばらくは食べ物には困らないだろう……既に感謝の気持ちと共にいくつか肉や野菜が届けられているし。

しかし、陽キャと女の子に絡まれる未来はエノーの中には無かったのだった。


「なんでこうなったのかなぁ……」


今日も、薬師エノーは頑張って生きている。


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