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少女はさすがにナンバーまでは記憶していなかったが、大型の白いワゴン車と言う事と、ホイールが光沢のある十字架のような模様の物であったという証言が取れ、容疑車両をある程度絞り込む事が出来た。
この十数時間以内で敦賀方面から京都を経由して大阪市内に入り、彼女の証言にあった『交通量の多い幅の広い道路』と言う点から大阪内環状線を南下したと辺りを付け、広域捜査総局が導入している犯罪捜査支援AI『SISAI』通称『プリースト』で検索を掛ける。
高速道路や幹線道路のオービスやNシステム、街のそこここに政府が設置した『あんしんカメラ』そして民間で提携している防犯カメラの映像が『プリースト』にはリアルタイムで集約されており、捜査員が装備するスマートフォン型の統合通信システム携帯端末『INCSM』で検索を掛ければ瞬時に該当する車両の映像と位置情報がディスプレイや二人が掛けている眼鏡型のアイウェアに表示される。
まず、数十台がリストアップされ、さらにふるいにかけると証言に極めて酷似した一台を見つける。
今病院で診察を受けながら事情聴取されいる被害者に、府警の機動捜査隊が実紅が送った問題の車両の画像を見せた。
『これが当該車両である事をマル害(被害者)より確認しました』
機捜隊員よりのメールが届く。
間を置かず『プリースト』からのメールの着信も届いた。
少女が盗んだクラッチバッグから複数の指紋が検出され三人の男がデータベースにヒットした。
三人とも傷害、不同意性交、窃盗、恐喝などのマエ(前科)が有る中国系難民で、一人は中国系難民のギャング組織とのつながりもある男だ。
不意に文字データと画像データだけの画面に映像が差し込まれる。
ショートボブの凛々しい一重瞼の若い女性の顔が映し出され、その下には『川崎唯奈巡査部長 大阪府警第三機動捜査隊』との表示。
背景はどうやら病院のようで医師や看護師が動き回る姿が覗ける。
『機特隊(機動特捜隊)の竜児巡査部長ですか?府警機捜の川崎です』
「機特の竜児です」
『こちらにもマル被(被疑者)の面(顔写真)が送られてきました。マル害から確認、とりましょか?』
少し考えてから。
「いいえ、今のところは結構です。クラッチバッグの指紋で充分引っ張れますんで」
川崎は悪戯っぽい笑みを浮かべ。
『配慮ですか?広捜さんはお優しいですね』
実紅もお返しに。
「わざわざ確認を取って来る府警の機捜さんもフェミニンなことで」
『わたしも女ですんで。では、最強のお二人のお手並み拝見と言う事で頑張ってくださいおばさま方』
「なんだ?生意気な小娘、求血族差別だ。監察にチンコロしてやろうか?」
苦笑いしつつリュドミラ。
「縄張りを荒らされたんが気に入らんのちゃう?ほな、行こか」
実紅の言葉を受けリュドミラはサイドブレーキを解除する。
少女をまだ探していると踏んで周囲を捜索する。
『商品』を捕まえねば『納品先』からペナルティを喰らうし、五十万円と薬も取り戻さねばならない。自分たちの物ではない、渡す先が有るとすれば尚更必死で探すだろう。
でないと自分たちの命が危ない。
カーロケーターを確認すると、他の捜査車両も捜索している様で身柄確保も時間の問題かと思えた。
「ここまで来たら私たちでパクりたいっすね。あの子にも約束したし」
と、ハンドルを操りながらリュドミラ。
「その執念、実りそうやわ。見てアレ」
実紅の視線の先は対向車線。驚異的な彼女の視力はこちらに向かって来る白いハイエースを捉えていた。ナンバーは該当車両に一致している。
リュドミラは急ハンドルを切り相手を塞ぐようにアウトランダーを停車させ、実紅はコンソールのタッチパネルを操作しルーフに赤色灯を展開し点灯させつつ、左右のボディ貼られたシート状のモニターに『車を止めろ』の文字を日本語、簡体字、ハングル、キリル文字で表示させる。
二人とも手に銃を取り車体の陰に入り構える。
実紅のベネリM3の薬室には、タイヤを切り裂くよう設計されたショットシェルが装填されていた。静止を無視すればそれを叩き込むつもりだ。
しかし、相手はアウトランダーの手前十メートルほどで停止した。
ショットガンと自動小銃には敵わないと判断したのか?それとも一戦まみえるつもりなのか?
薬室のショットシェルを普通のダブルオーバックに装填し直しつつ実紅は叫んだ。
「広捜や!車から降りろ!」
左右のドアと後部のスライドドアが開き、中から男が三人降りて来る。
「両手を頭の後ろに組め!跪け!地面に腹ばいなれ!」
二人は大人しく従おうとするが、一人は突っ立ったまま。手をあげようともしない。
「聞こえねぇのか!」
リュドミラが怒鳴った途端、男は腰に手を回し拳銃を取り出しリュドミラに狙いを定める。
彼女の銃が火を噴いた。20式自動小銃のボアアップ版であるHOWA7.62。
七.六ニミリNATO弾が、的が構えるマカロフを三千五百ジュールの破壊力で手ごと吹っ飛ばす。
金属片と肉と骨と血をまき散らしながら、男は激痛とショックで後ろ向きに倒れ込む。
残り二人は恐怖で凍り付き動けない。
二人は銃を構えたまま三人に駆け寄り、実紅は二人に手早く手錠を嵌め、リュドミラは右手を失くした男の腕にターニケット(軍用止血帯)を巻く。
白目を剥いて気絶している男の顔はA号照会(犯歴照会)で中国系難民ギャング組織とのつながりが記載されていた男の物だ。
「お、おい!無茶苦茶だろ!俺たちがなにしたって言うんだ!」
腕がねじ上げられる痛みに歪んだ、タトゥー塗れの顔を実紅に向け男は流暢な日本語で言う。
「『無茶苦茶』?警官弾こうとした奴の仲間に言われたくないねぇ」
処置を終えたリュドミラがしゃがみ込んで男の顔を睨みながら言う。
「サンローランのクラッチバッグ。高かったやろ?持ち主を探しててん」
男の顔が青ざめる。
「午前二時三十五分、未成年者略取と麻薬等不法所持の容疑で緊急逮捕する」
実紅はそう宣言した時、救急車とパトカーのけたたましいサイレンが鳴り響いた。




