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彼女は、数日前に中国大陸から逃れて来た難民だった。
共産党政権が崩壊し、全土が内乱状態になった祖国からあふれ出た難民を以前なら受け入れて来た日本政府だったが、その数の多さと受け入れても生活基盤が形成できないことから厳しく制限を掛けざる負えなくなった。
だが、それでも流入は止まらず、違法な斡旋業者も暗躍し、非合法な状態で日本に潜り込む難民の数は膨大な人数に及んでいる。
彼女もその一人だった。そして、そんな違法滞在者となった難民を、特に女性を待ち受ける運命は決まっている。
青島の港から数十人の難民と共にコンテナに詰め込まれ敦賀の港に来たのは一昨日の事。
そこから大型のワゴン車に八人ほど押し込まれ三人は京都で降ろされ四人は大阪市内で降ろされ、最後に残った自分は運転手と見張り役の男二人、合計三人の男にレイプされた。
そこから別の場所に連れていかれる途中、一人が立小便をしようと外に出た隙に車を飛び出し逃げた。
交通量の多い幅の広い道沿いだったので、行きかう車の間をはねられて死んでもいいというつもりで駆け抜け男共を撒きここまでたどり着いたという。
サンローランのスクラッチバッグはその時盗み出した物だ。
中身を検めると現金五十万、チャック付きビニール袋に入った錠剤五十個、ポケットティッシュ、コンドーム、等。持ち主の身分の解るものは何もない。当然、免許証、マイナカードなどは無い。
現金は報酬と思われ、錠剤は裸でビニール袋に詰められていることからも明らかに違法薬物と思われる。
錠剤にプリントされたロゴから見てMDMAか、最近はやり始めた『ジェット』と呼ばれる合成麻薬だろう。
良く銃を入れていなかったものだ。それにしても、盗まれた連中は今頃血眼になって彼女を探しているに違いない。
「あのさぁ、警察に行かない理由は解るとしてもさぁ、なんでドラッグストアなのさ?」
と、リュドミラ。
彼女はまだ身を強張らせて、おずおずと答える。
「赤ちゃん、出来て欲しくないから、薬を買おうと思って・・・・・・」
緊急避妊薬を買って飲もうとしていたのだ。
その知識は男達がハイエースの中でしていた『バンバン客取らせて中出しさせても、薬飲ませりゃガキをはらむことはねぇ、病気もらってくたばるまで働かされるぜ』等と言う雑談から得たという。
彼女が理解できる言葉と言う事は、連中も中国系か?
「気持ちはわかるけど、そんな事してどうなるのさぁ、逃げ切れると思ってたの?悪いけど『商品』のアンタを輪姦すようなゴミ糞野郎どもだよ。それに逃げられたとしても、五十万ポッチすぐ使い切るだろうし、オマワリにその錠剤見つかったらヤバい事になるよ。強制送還が怖いのも解るけどさぁ、悪い事されたら警察行こうよ警察、アタシらそれでご飯食べてるんだから」
そう説経するリュドミラを微笑ましく見ていた実紅だったが、不意に。
「・・・・・・。それにしても、糞野郎ども、ホント、許せんわ」
重くそう実紅が呟く。
リュドミラは冥く笑いながら。
「分隊長、スイッチが入りましたね。どうします?縄張り荒らし続けます?」
赤い光の明滅が視界の横に差し込む。目を遣れば灰色の覆面パトカーが数台、此方に向かって右折してきている。
大阪府警の機動捜査隊が応援に駆けつけて来た様だ。
「この子とブツは機捜に任せて、私らはホシを追おう」
「了解!」
そう応じた後、リュドミラは少女に。
「安心しなよ、日本最強の女刑事二人が、アンタを酷い目に遭わせた奴にオトシマエつけに行くからさ」
と、竜がのたくる刺青の入った腕を伸ばし、少女の頭をフード越しに優しくなでた。




