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【第3話】恐怖の赤紙
その日の午後。役場の男が、泥を跳ね上げながら自転車でやってきた。
手渡されたのは、薄汚れた、けれど鮮烈な「紅い紙」。
昭和19年、学徒出陣の年齢が引き下げられた結果、17歳のマコトにも「臨時召集令状」が届いたのだ。
「……嫌。行かせない。マコト、行っちゃダメ……!」
母さんは狂ったようにその紙を奪い取り、胸に抱きしめて泣き崩れた。
マコトの目には、母さんの体から溢れ出す「ドロドロとした濃紫色」の絶望が見えた。それは、空襲の炎よりも熱く、重く、僕の心を焼き焦がす。
「お母さん……俺、行くよ。行かなきゃ、今度は憲兵が来て、この家ごと消される」
マコトは母さんの震える手をそっと解き、国民服に袖を通した。
駅へと続く道。昨日まで美しかった街並みは、今はただの巨大な墓標の群れのように、僕の背中を見送っていた。




