【第1話:瓦礫の上の惨状】
昭和19年11月24日。この日は、マリアナ諸島から飛び立ったB-29爆撃機が初めて東京を本格的に爆撃した日として歴史に刻まれている。けれど、マコト(17)の住む小さな田舎町にとっては、それが「世界の終わり」の始まりだった。
放課後、美術室の窓から差し込む夕日は、いつもなら穏やかな黄金色をしていた。けれどその日、北の空から現れたのは、銀色に光る無数の「死の鳥」だった。
「……なんだ、あれ」
マコトが筆を止めた瞬間、空を切り裂くような重低音が響き渡った。
オルガンの鍵盤を一度に叩いたような、不気味で巨大な地鳴り。
次の瞬間、街の至るところで「どす黒い火柱」が噴き上がった。
マコトの目には、爆弾が着弾するたび、街の美しい風景が「憎悪の赤」と「絶望の黒」に塗りつぶされていくのが見えた。
感情が色で見えるマコトにとって、それは単なる破壊ではなかった。人々の思い出や、ささやかな幸せが、物理的な熱量によって「無」へと書き換えられていく、あまりにも残酷な光景だった。
「逃げろ! 早く!!」
先生の叫び声に弾かれ、マコトは校舎を飛び出した。
校庭には、焼夷弾がバラバラと親子のように降り注いでいた。
ナパーム剤を撒き散らすM69焼夷弾が着地するたび、逃げ惑う人々の影が、一瞬だけ白く、そして激しく明滅して消えていく。
「お母さん……! 父さん……!」
マコトは炎の壁を潜り抜け、自分の家があるはずの方向へ走った。
視界を覆う煙の向こう側、燃え盛る中央広場の真ん中に、「そこだけ色が抜け落ちたような空間」を見つけた。
瓦礫の上に、一人の少女が立っていた。
都会の女学生が着るような、けれど泥に汚れたセーラー服。彼女は燃え盛る街を、まるで映画でも見ているかのように静かに見つめていた。
マコトの目には、彼女の周りだけが、雪が降っているかのように「透き通った白」に見えた。
戦争という狂った「極彩色」の中で、彼女だけが、僕の知らない平和な世界の象徴のように、無色透明だった。
少女がゆっくりとマコトを振り返る。
「……やっと来た。私の知らない『色』を持った、あなた」
爆風で彼女の髪が舞い、背後のビルが轟音と共に崩れ落ちる。




