出会い
文学フリマのメモリーズ・ドリフトのおまけで入れたものです。クォリティーに関してはなんともといった所です。
それは
昔々あるところにから、少したった世界の物語
藁の家と木の家を吹き飛ばし三匹の子豚を襲った狼がいて
白雪姫を眠らせる毒を造った人がいて
領主とその民を騙し、その領主を暗殺して領主として成り代わった男がいて
それらは正義の名の下裁かれる存在であるが、それを弁護しようという酔狂な人間もいる。
彼は「その後に」現れた平凡な弁護士であり、誰であろうと「公平に裁かれる」権利があると信じている。
たとえそれが子豚を襲った狼でも、愛のキスがないと目覚めない毒を造った者でも、嘘で国を手にした者でも
どこに罪があり、情状酌量の余地はなかったのか調べ、そして何があったのかを語らせなければならない
─裁判というものはそういうものであり─
─決して─
─正義の名の下に「私刑」が行われてはならない─
「すみませんねぇ。お客さん」
「一月前からこっから街に行く馬車は動かせなくなりやして……」
「急ぐってのはわかりますが、こればっかりはどうにも……」
御者は帽子を脱ぎ、額の汗をぬぐいながら申し訳なさそうに頭を下げた。その仕草には心からの謝罪が込められており、彼もまた困り果てているのが見て取れる。
ペイジはちらりと日が傾き始めた空を仰ぎ、焦りを押し隠すように小さく息を吐いた。西日が雲の隙間から差し込み、時の経過を無慈悲に告げている。
朝からとある証拠のために郊外へ向かい、何とか重要な証拠を確保できたのは良いものの、帰りの馬車がこの有様では意味がない。馬たちは完全にボイコットを起こしており、馬車を動かせない状態が続いているのだ。「給料を上げろ!」「人参を増やせ!」と馬たちが口々に鳴いている様子を見れば、もしかしたらこれも裁判沙汰になるかもしれない。
ペイジは腰の懐中時計を取り出し、針の位置を確認する。
――まずいな。このままでは開廷に間に合わない。
――朝からとある証拠のために郊外まで足を運び、重要な証拠を見つけることができたというのに。
焦りを覚えるが、どうしようもない。今から走れば間に合うかどうか……距離を考えれば相当厳しい賭けになる。
「ここまでで大丈夫です。後は走ります」
「いやお客さん。こっから王都まで結構あるよ」
御者は目を丸くし、思わず心配の声を上げた。
それはそうだ。道のりは遠く、常人であれば夕方にようやく到着する距離である。走って向かうなど正気の沙汰ではない。
「昔、鍛えてはいたので大丈夫だと思います」
「それに――訴訟は待ってはくれないものでして」
ペイジはかすかに苦笑を浮かべ、改めて御者に深々と頭を下げる。法廷は時間厳守が絶対であり、遅刻は許されない。
「ああ――そんなに急いでいるなら」
御者がふと思い出したようにペイジに教える。
「このあたりに、薬屋をやってる魔女がいる。何かの助けになるかもしれんよ?」
その言葉に賭け、ペイジは裁判所までの道ではなく、魔女が住んでいると言われた細い道を進んでいた。
細い小路を抜けた先、赤い外壁と煙突から白い湯気を立ち上らせた古びた一軒家が見えてきた。まるで絵本から抜け出したような、どこか温かみのある佇まいである。
家が見え、ふと脳裏にある疑念が浮かぶ。
――未登録の魔女だったらどうする?
この国では魔法は許可制である。法に仕える身として、無許可で魔法を使う者を見逃すわけにはいかない。
いろいろな考えがよぎったが、ペイジは覚悟を決める。
――その時は、しっかりと処罰を受けよう。
そう心に誓い、扉に近づいた。
扉の前に立つと、中から慌ただしい足音と何かが倒れる音が聞こえてきた。やがて煙と共に扉が開き、若い女性が顔を覗かせる。
彼女は銀がかった白い髪を肩まで伸ばし、青い瞳をしていた。大きな魔女帽を被り、深緑色のローブを身に纏っている。手には小さな薬草袋を下げ、頬には軽く煤が付いており、どうやら薬の調合中だったらしい。
その姿は若々しく、どこか儚げな美しさを湛えていた。どうやら薬の調合中だったらしい。
「あ、あの……どちら様でしょうか?」
声は若々しく、どこか不安げに震えていた。
「申し訳ありません。私、弁護士のペイジと申します。御者さんから、こちらに薬屋をされている魔女の方がいらっしゃると伺いまして……」
「え、ええと……はい、薬屋はやっておりますが……」
モルガナと名乗った彼女は、困惑したように眉を寄せる。
「実は急用で王都まで向かわなければならないのですが、馬車が動かせない状況でして。もし何かお手伝いいただけることがあれば……」
ペイジの必死な様子を見て、モルガナの表情が少し和らいだ。
「すみません。あと正午までに城の裁判所にいなくてはならなくて、馬やそういった類を貸していただけたらたすかるのですが。あとでお礼はいたしますので!」
徐々に声が大きくなり目の前の魔女をちょっと圧倒してしまう。困惑していたが落ち着いて。
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、最近認可をうけたので。その少し自信が」
「構いません」
遮るようにいった。実際時間は押しているので仕方はない。
「……わかりました。馬には乗れますよね?」
軽く頷いて肯定をしめす。それを確認し少し悩んだ後、ならばと魔女は懐から杖を取り出した。
優雅に軽く振った後、持っていたかばんを指す。すると革製のかばんから頭が1つと足が4本生えものすごい勢いでペイジの脛を蹴り始めた。
痛みでうめき声を上げたが、しっかりと押さえつける。このかばんには裁判で使う重要な証拠が入っている。脛を蹴られて痣になる位ならどうってことはない。
子供が書いたかのような馬の頭についている、その可愛らしい口におもいっきり噛まれる。
――どうってことはないというのは嘘かもしれない。離すわけには行かないが……
「すみません。うまく行きませんでした」
鎮痛そうな顔を手で隠しながら謝られる。暴れまわるかばんをしっかりと押さえつけながら大事なことを確認する。
「走る早さは『馬』ですよね?」
「ええ、そうなるはずですが……」
手からわずかに顔をのぞかせ弱々しく答える。
――なら。十分だ。
「ありがとうございます。それなら十分です」
お礼を言い。暴れているかばんを地面に下し、上手いことかばんに乗る。
魔女は困惑しているがお構いなしに生えた首と元からあった取っ手をしっかりと持ちカバンを走らせる用意をする。
「はいよー!」
そう言ってかっこ良く走りたかった。
いくら過去、馬に乗った事があると言っても所詮は良く訓練された馬での話だ、走り始めて彼女から見えなくなる頃にはカバンの胴の部分にしがみつく形になっていた。




