第1章 08
ぼくたちが、ふらふらになって部屋から出てくると、リビングのソファーのうしろにうずくまっていた萌ちゃんが、心配そうに駆けよってきた。
「ものすごい音がしたから、わたし怖くてかくれちゃったけど、美玲ちゃん平気?」
「まあね……。それより、この部屋にいたお化けは、わたしが徹底的に退治したから、もう大丈夫よ。ちょっと派手に格闘して、部屋じゅう散らかっちゃったけど……」
「いいのよ、そんなこと! 美玲ちゃん、ほんとにありがとう!」
萌ちゃんは、美玲ちゃんが苦しそうになるくらい、ぎゅっと体を抱きしめた。
そんな萌ちゃんの腕を力づくではがしながら、美玲ちゃんがあやまる。
「それから、これも割れちゃった。大事なものなんでしょ? ごめんなさい」
「うん」と、萌ちゃんは小さくうなづくと、写真立てを両手で受け取った。
「一枚だけ残っている、家族三人で撮った写真。ママに見つかると捨てられちゃうから、ベッドの下にかくしておいたの」
美玲ちゃんは、とても悲しそうな顔を一瞬したかと思うと、申し訳なさそうにたずねた。
「萌、ごめん。言いたくなかったら言わなくていいけど、萌のご両親、どうして別れちゃったのかな?」
萌ちゃんは、すとんとソファーに腰を下ろした。
美玲ちゃんが寄り添うようにとなりに座ると、萌ちゃんは、ぽつりぽつりと話を始めた。
「ママはいまもバリバリのキャリアウーマンで、雑誌の編集長をしているの。パパはもともと、その雑誌とかでイラストを描いていた、イラストレーターだったんだって。
でも結婚してから、パパはママの収入をあてにしちゃって、ほとんど働かずに、ネットゲームばかりするようになっちゃったの。わたしもパパがお仕事をしている姿を見たのは、幼稚園の頃が最後だったかな……」
「それで離婚ってわけね……。萌はお父さんに会いたくないの? お父さんの住んでるところ、知らないわけじゃないんでしょ?」
「えへへ、実はそうなの。このまえパパに会ったとき、こっそり住所、教えてもらったからね」
萌ちゃんはそう言うと、写真立てから写真を取り出し、裏返した。
そこには、萌ちゃんのお父さんの住所が書かれていた。
「でも、ママに言われているの。パパと会うのは、三ヶ月に一回だけって……」
「どうして、そんなこと?」
眉根をよせた美玲ちゃんに、萌ちゃんがこたえる。
「そのほうが、パパのためなんだって。よくわからないけど、ママ、わたしのためにお仕事がんばってくれているし、裏切れないよ……」
「ふ~ん」
美玲ちゃんは納得したような、しないような顔でうなづいていたけど、はっと気が付いたように、萌ちゃんに忠告を付け加えた。
「そうだ、萌、もう優斗くんを部屋に誘っちゃダメよ。あのお化け、優斗くんが来たら、また現れるって言い残していたわ!」
「え~っ! せっかく優斗くんと、いい雰囲気になれそうだったのに~」
頭を抱え、おもいっきり悔しがる萌ちゃんを見て、美玲ちゃんは、とっても意地悪そうな笑みを浮かべていた。




