第1章 07
『……ウ・ル・サ・アァァァァァァイッ!!!』
目玉お化けはほっぺたを風船のようにふくらませると、とがらせた口からタバコ臭い息を吹き出した。
強烈な風が吹き荒れて、部屋中の物がガタガタと音を立てて震える。
風の直撃をくらった美玲ちゃんは、吹き飛ばされて尻餅をついてしまった。
しかもスカートがめくれて、パンツ丸見えという大失態。
「きゃああああ~! やめろ、このド変態ストーカーお化け! ミッケも、そんなところでかくれてないで、なんとかしなさいっ!」
美玲ちゃんに怒鳴られて、ようやくぼくは我に返った。
ぼくは人見知りで恥ずかしがり屋さんだから、ついついベッドの下から、お話が合うお化けさんかどうかの観察に、没頭してしまったらしい。
決して、怖くてかくれていたんじゃないよ。
「あああの、はじめまして! ぼぼぼく、化け猫のミッケと申します。どうぞ、よろしく……」
ただ、どういうわけか、声がぶるぶる震えているけど……。
「ばか! なに自己紹介なんかしてんのよ! こいつは悪いお化けなんだから、飛びつきなさいっ! かみつきなさいっ! 目ん玉を、引っかいちゃいなさぁ~い!」
「えええ? ぼく、お化けと戦うなんて話、聞いてないよ~」
目玉お化けは、さらにほっぺたを巨大にふくらませ、一気に息を吹き出した。
竜巻のような風が部屋の中を渦巻いて、ランドセルや帽子、目覚まし時計や筆記用具、枕やクッションなど、ありとあらゆる物がぐるぐると宙を舞う。
ぼくは洗濯機に入れられたぬいぐるみのように部屋中を飛び回り、美玲ちゃんは頭を抱えて部屋のすみにうずくまった。
と、いきなり風が弱まってきた。
ぼくは風に舞う木の葉みたいにゆらゆらと床に着地すると、酔っぱらいのような足取りで、美玲ちゃんに駆けよった。
「大丈夫? 美玲ちゃん」
「んん~。平気……かな?」
美玲ちゃんが、ゆっくりと顔を上げて辺りを見回す。
つられてぼくも見回すが、いつのまにか目玉お化けの姿はどこにもなかった。
「どうして消えちゃったんだろう?」
立ち上がった美玲ちゃんが、床に散乱した色々な物の中から、何かを拾い上げた。
「竜巻みたいな風にかき回されて、部屋中の物が宙を舞ったでしょ? わたし、ケガしないように、すかさずうずくまったら、ベッドの下にこれを見つけて……。
無我夢中で、あのお化けめがけて、投げつけちゃったのよね」
美玲ちゃんの手には、ガラスの割れた写真立てが握られていた。
「きっと、割れたガラスが、あの大きな目玉に刺さったんだね……。なんでベッドの下に写真立てがあるのか知らないけど、助かったね……」




