第1章 06
「ちがう! ポルターガイストなんかじゃない! やっぱりこの部屋、なにかいる!」
窓の外はどす黒い雨雲が広がり、まだ昼過ぎだというのに、室内はすっかり暗くなっていた。遠くの空で稲光が光っている。
「ぼぼぼ、ぼくには何も、みみみ、見えないですけど?」
「よく目を凝らして。学習机の本棚よ……」
美玲ちゃんに言われた通り、ぼくは恐る恐る学習机に目を向けた。
言われてみれば、学習机の本棚の辺りで、何かがうごめいた気がする。
さらに目を凝らしたとき、ぼくはついに見つけてしまった。
並んだ本と本のすきまから睨みつけている、ぎょろりと血走った目玉を……!
ぼくの頭の中は真っ白になってしまって、そこから先はぼんやりとしか覚えていないけど、うっすらとした記憶の中で、美玲ちゃんはこう怒鳴っていた。
「年頃の女の子の部屋をのぞくなんて、なんて変態オバケなの! そんなところにかくれていないで、出てらっしゃいっ!」
美玲ちゃんが怒鳴ると、学習机とうしろの壁のわずかなすきまから、ずるりずるりと黒く大きな影が現れ、宙に浮かび上がった。
それは、異様なほどに大きな、人間の頭――。
激しくふり乱したような髪の毛に、お肌の手入れがされているとは思えない、脂ぎった男の顔。
天井の半分を埋めつくさんばかりの、巨大な中年男性の頭の下には、不釣り合いなほど小さな体がぶら下がっていて、ぎょろりとむき出した大きなふたつの目玉は、左右ばらばらに、せわしなく辺りを見回していた。
『断ジテ……断ジテ変態ナノデハナイ……。心配ナノダ……。
オレノカワイイ萌ニ、変ナ虫ガヨッテコナイヨウ、見守ッテイルダケダ……』
目玉お化けが、地響きのような低い声でそう呟いたとたん、部屋中にタバコの煙の匂いが立ちこめた。
目まいがしそうな匂いにむせつつも、美玲ちゃんが怒鳴る。
「嘘つかないで! あんたは萌に振り向いてもらいたいだけでしょ!
だから物音を立てたり、家の物を動かしたりして、萌にふり向いてもらおうと必死なんじゃない!
そんなことしたって、萌に嫌われるだけよっ!」
『ウ……ウウ…ウ……』
目玉お化けの脂ぎった顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
次の瞬間、部屋の窓ガラスがびりびりと震えるほどの大きな声で叫んだ。
『……ウ・ル・サ・アァァァァァァイッ!!!』




