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化け猫ミッケと黒い天使 〜エピソード0〜  作者: ひろみ透夏
第1章 萌の部屋にいたものは

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第1章 05

 

「じゃあ、しばらく一人で様子を見てみるから、(もえ)は部屋の外で待ってて」


 美玲(みれい)ちゃんはそう言うと、ぼくのおしりをぽんっと蹴って、部屋の中に押し入れた。

 続いて美玲(みれい)ちゃんも部屋に入り、ドアを閉める。

 いつもなら、「蹴るなんて、ひどい!」と怒鳴るところだけど、ぼくはお化けの気配に集中することでいっぱいだったから、怒るのも忘れていた。



「ねえ、お化けいる?」

 しんと静まり返った室内に、しだいに強く降り始めた雨の音が響いている。


「う~ん。なにか感じるんだけど、やっぱりちょっと(うす)いのよね」


「……(うす)い?」


「うん。もしかしたら、ポルターガイストかも」


「ポルターガイスト? それ、どんなお化け?」



「お化けじゃないよ。わたしぐらいの子どもがいる家で、よく起こる現象よ。

 (もえ)、両親が離婚したばかりで、ママも仕事でよく家を()けて、いつも一人ぼっちでしょ? (もえ)自身も気付かないうちに、不安や精神的なストレスが(たま)っているのかもね。

 そのうっせきしたストレスのパワーが、自分でも気付かないうちに発散(はっさん)されて、部屋の物を動かしたり、物音を立てたりするの」


 とたんにぼくの緊張の糸は、ぷつりと切れてしまった。はじめてお化けに出会えると期待していたのに、その正体は、(もえ)ちゃん自身のストレスとはね。


「なあんだ。じゃあ、解決方法は簡単だね。(もえ)ちゃんに、『まあまあ落ち着いて、ストレス発散(はっさん)にカラオケでも一緒にどぉ?』って誘えばいいんだから」


 ぼくの提案に、美玲(みれい)ちゃんはため息まじりで肩をすくめた。


「ばかね、心の問題ってのは、そんなに簡単じゃないの!

 だいたいあんた、お化けじゃないとわかったとたん、ずいぶん余裕じゃない?

 さっきドアのすきまから部屋の中をのぞいたとき、体中の毛が逆立(さかだ)っていたの知ってるんだからね! ほんとはちょっと、ビビってたんじゃないの?」


 美玲(みれい)ちゃんのするどいツッコミに、ぼくは自分でも認めたくなかった本心を見抜かれたようで、すっかり動揺してしまった。

 たしかに、仲間に会えるという期待より、ちょっと恐怖心の方が、上回っていたかもしれない。



「ばばば、ばか言ってらあ! そ、そんなわけないよう!」


「あら、図星(ずぼし)~。お化けのくせにお化けが怖いなんて、超ウケるんですけど~」


「その、ひとを小バカにしたようなしゃべりかた、やめろ~!」


 と、美玲(みれい)ちゃんに飛びかかろうとしたとたん、美玲(みれい)ちゃんは一点を見つめたまま固まってしまった。

 ふだん見せたことないような真剣なまなざしで、学習机を見つめている。



「なにそれ。わかりやすい演技しちゃってさぁ。ぼく、だまされないからね!」


 だけど美玲(みれい)ちゃんは、何もこたえずに、おもむろに左の耳たぶを指でつまんだ。

 ゆっくりと引っぱったり、戻したりしている。


「ねぇ、なにしてるの?」


「黙って! いま波長(はちょう)を合わせているんだから!」



 いつのまにか部屋の空気が、ぴんと張りつめていた。

 バチバチと激しく窓を打ちつける雨音だけが、室内に響いている。


 ぼくはすがるような気持ちで、美玲(みれい)ちゃんを見上げた。

 美玲(みれい)ちゃんは、ぼくと視線を合わすことなく、ずっと一点を見つめたままつぶやいた。



「やっぱりこの部屋、なにかいる!」




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