第3章 21
ぼくも美玲ちゃんも、びっくりしてしまった。
そうだ、あのヒゲのおっさんだ。
メガネをかけているうえに、無精髭もそって、ぼさぼさの長い髪も、さっぱりと清潔感あふれるサラサラヘアーになっているから、ぼくらは全然気が付かなかったのだ。
「どうして、わたしの家がわかったの……?」
おびえにも似た表情で、美玲ちゃんがたずねる。
「そんなことは、どうでもいい。きみの親友は意識を取り戻しただろう? 次は、ぼくの仕事に手を貸してくれる番だ」
「わたしは、萌の意識を取り戻すために、あなたについていくと言ったの!
わたしを裏世界へ送って、連れ戻してくれたのは感謝してる。でも、それ以外、あんた何もしてくれなかったじゃない!」
いちゃもんをつけて、なんとか約束をなかったことにしようとする美玲ちゃん。
対してシショウは、余裕の笑顔で返答する。
「元来、きみたちに道を示すまでが、ぼくのつとめだ。その試練を乗り越え、成長するのが人間の運命……。
それと、裏世界からきみを連れ戻したのは、ぼくじゃない」
「じゃあ、誰が……?」
「いつもきみを見守り、きみを愛するものの仕業だろう」
美玲ちゃんがぼくにふり返ったが、ぼくは首を横にふった。
ぼくだって美玲ちゃんのことは大好きだけど、そんな力は持ち合わせていない。
「とにかく、萌はもう元気だもん。わたしはあなたに用がない!」
ぴしゃりと言い放った美玲ちゃんに、シショウの笑顔がゆっくりと消えていく。
「契約は破れない……。きみの左手には刻印がされている」
「美玲ちゃん! てっ! 手! 左手ぇ~!」
ぼくは思わず叫んでしまった。
美玲ちゃんの左手が青い炎に包まれていたのだ。
「きゃぁああっ!」
床に手をこすりつけて、青い炎を消そうとする美玲ちゃん。その姿を妖しい笑みを浮かべながら、シショウが見つめている。
「怖がらなくても平気だよ。その炎は熱くないし、きみを傷つけもしない。いまはね……」
いまにも噛み付きそうなほどするどい視線で、美玲ちゃんがシショウを睨みつける。
「そんな怖い顔しないでほしいな。ぼくに協力してくれたら、君の知りたかったこともいずれ教えてあげよう」
「わたしの、知りたかったこと……?」




