第3章 15
「美玲ちゃん、降ろして。ぼく、抱っこより頭の上がいい」
ぼくの訴えが聞こえないのか、美玲ちゃんはだまって走り続けた。
「美玲ちゃん、頭の上の方が、萌ちゃんを捜しやすいよ!」
「無理! もう頭に乗せられない!」
なおも訴えかけるぼくに、美玲ちゃんは怒鳴るようにこたえた。
そして、まっすぐ前を見つめて走りながら、困惑した表情で続ける。
「だってあんた、もう猫じゃない。人間の、男の子だもの……」
ぼくは驚いて、美玲ちゃんの胸に抱かれながら自分の両手を見つめた。
そこに毛だらけの丸っこい手はなく、三歳か四歳くらいの人間の、小さな手のひらがあった。
「なんで! どうして!」
混乱するぼくに、美玲ちゃんも混乱した様子でこたえる。
「ごめん、わからない! けど、いまは萌をさがすのが一番なの!」
なぜか人間になってしまったぼくは、美玲ちゃんの腕から飛び降りて一緒に走った。
けんめいに走りながらも、ときおり手のひらを見つめる。
初めてのはずの人間の体が、なぜか少し、懐かしい感じがするのだ。
闇に沈んだゴーストタウンのような街を、ぼくらはひたすらに走った。
大通りと言えど行き交う車の姿はなく、弱々しくともる街灯と、無意味に変わり続ける信号機の灯りが、どこまでもぽつぽつと続いている。
マンションや住宅、ビルの窓から漏れる明かりは、ひとつもない。
ぼくらは、美玲ちゃんと萌ちゃんが一緒に遊びに行ったことがある、公園や駅前のお店などを見てまわった。
「美玲ちゃん、見てあそこ! 人がいる!」
それは、駅前にあるゲームセンターを捜索しているときだった。いくつも並んだ写真シール機のひとつで、カーテンの下のすきまからのぞく、人の足を発見したのだ。
美玲ちゃんが、写真シール機に飛び込んで叫ぶ。
「萌!」
よろこび勇んで開けたカーテンの中にいたのは、全身が真っ黒な大人の女性。
晴れた日の地面に映るような、くっきりとした女性の影が、驚いた様子でぼくらを見つめていた。
「すみません! わたしぐらいの女の子見ませんでした? 最近、こちらの世界に迷い込んでしまったんです!」
美玲ちゃんは怖ろしがるよりも先に、女性の影に話しかけていた。
しかし女性の影は、不思議そうにぼくらの方を見やるだけで、また操作パネルに視線をもどしてしまった。
「こっちは必死になって聞いているんだ! なにかこたえてよっ!」
ぼくは女性の影が見つめている操作パネルに、文字を書いてやった。
正面にある写真シール機の画面に、「こっちを見ろ!」という文字が浮かび上がる。
すると、女性の影は震え上がって、カーテンの外に逃げ出してしまった。
そのあとを美玲ちゃんと追いかけるも、やがて女性の後ろ姿は、霞のように消えてしまった。
と、そのとき、頭の中にシショウの声が響く。
「無駄だよ、美玲さん……」




