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化け猫ミッケと黒い天使 〜エピソード0〜  作者: ひろみ透夏
第1章 萌の部屋にいたものは

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第1章 04

 

「ミッケ、降りて。重たいよ~」


 日曜日の午後、ぼくたちは、豊海(とよみ)町にある(もえ)ちゃんの家に向かっていた。

 いつも通りの黒いワンピースに身を包んだ美玲(みれい)ちゃんの頭の上に乗り、ぼくは透明なビニール傘を通して、どんよりと重くるしい雲が広がる空を見上げていた。

 ぱらぱらと落ちてくる水玉が、目の前ではじける。


「だって、濡れちゃうもん。ぼく雨きらい」


「あんた、お化けでしょう。雨なんて関係ないじゃない」


「気分だよ。美玲(みれい)ちゃんだって重たくないでしょ? ぼく、お化けなんだから」


「重たいの。なんか、ずっしりくるのよ。気分的に……」


 そんな口喧嘩をしているあいだに、(もえ)ちゃんの住むマンションに到着した。

 ぼくは美玲(みれい)ちゃんの頭の上から飛び降りて、三十階はありそうな高層マンションを見上げながらたずねた。


「でも、なんで助けることにしたの? 恋敵(こいがたき)なのにさ」


「それとこれとは話が別、友だちなんだから、困っていたら助けるに決まってるでしょ」


 あたりまえのようにそう言った美玲(みれい)ちゃんが、ちょっぴりカッコイイと感じた。

 マンションのエントランスに入って、オートロックの操作盤に部屋番号を入れる。


美玲(みれい)ちゃん、来てくれてありがと~。どうぞ、あがって、あがって! いまロック解除したから」


 (みょう)にあわてている(もえ)ちゃんの声が、スピーカーから聞こえてきた。同時に、透明なドアがするりと開いたので、ぼくらはマンション内へ入った。


 つややかに輝く大理石の壁と床。間接照明が施された広々としたエレベーターホールの角には、見たことのない大きな観葉植物が飾られている。


「かなり新しいマンションだね。お化けなんかいなさそう」


「いるところには、どこにだっているのよ」


 やがて音もなく降りてきたエレベーターに、美玲(みれい)ちゃんとふたりで乗り込む。驚くほど静かに上がっていく空間の中で、ぼくの緊張もぐんぐんと高まってくる。


「なら、このエレベーターにもお化けいる? なんか耳がキーンとして不気味じゃない?」


「ここにはいないわよ。それに不気味ってなによ? あんたの仲間でしょ?」


「仲間って言ったって、ぼくみたいに人当(ひとあ)たりのいいお化けとは限らないし……。あ~、なんかドキドキする!」


 すると美玲(みれい)ちゃんは「お見合いでもするみたい!」と、声を上げて笑った。




 エレベーターのドアが開くと、すぐ目の前に(もえ)ちゃんがいた。おしっこでも我慢しているみたいにその場で足踏みしながら、美玲(みれい)ちゃんの腕にしがみつく。


「今日みたいにママがいないときに限って、いっつも現れるの! さっきも学習机の本がガタガタゆれたり、ドアが勝手に開いたり……」


 そのまま美玲(みれい)ちゃんの腕を引っぱって通路を走り、強引に自分の家にまねき入れた。

 家の中は白を基調とした、とても明るいさわかな空間だった。

 何もかもきれいに整頓されていて、グレープフルーツとかライムみたいな、甘酸っぱい柑橘系(かんきつけい)のアロマまで()かれている。

 まぁ、人間にはさわやかで良い香りなんだろうけど、猫のぼくはちょっと苦手。



「どお、なんか感じる?」


 (もえ)ちゃんが不安そうな顔で、美玲(みれい)ちゃんにたずねる。


「ん~。まだ、ちょっとわからないなぁ……。(もえ)の部屋を見せてくれる?」


 (もえ)ちゃんは自分の部屋の前まで案内すると、さっと美玲(みれい)ちゃんの背中にかくれた。


「わたしはもう怖くて部屋に入れない。美玲(みれい)ちゃん、ひとりで入って」


 美玲(みれい)ちゃんは部屋のドアを少しだけ()けて、室内をのぞき込んだ。

 ぼくも恐る恐る、そのすきまから部屋の中をのぞく。


 窓の外に雨雲が広がってるせいか室内は薄暗かったけど、(もえ)ちゃんらしい、やわらかなパステルカラーで統一された部屋は、まるでお化けなんか出る雰囲気じゃない。



「じゃあ、しばらく一人で様子を見てみるから、(もえ)は部屋の外で待ってて」




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