第1章 03
萌ちゃんの両親は、去年、離婚したばかりだった。
そして三ヶ月ほど前に、萌ちゃんはお母さんとふたりで、おしゃれなとなり街、豊海町にあるマンションに引っ越してきたのだ。
それから何ごともなく、平和に暮らしていたらしいんだけど……。
「萌ったら、ママが留守がちなのをいいことに、同じクラスの優斗くんを自分の部屋に連れ込んだんだって。おとなしそうな顔して、やることやってるんだから!」
ベッドにふんぞり返って座る美玲ちゃんは、ちょっとイライラした様子だった。
「で、泣いてた理由はなに? 痴話ゲンカってやつ? 優斗くんとうまくいかなかったの?」
とたんに、美玲ちゃんの表情が、意地悪そうな笑顔に変わった。
「それが、そうなのよ~。なんかね、飲み物を用意しているあいだに、いきなり優斗くんが部屋から飛び出してきて、『きみの部屋になんかいる! ぼく気持ち悪いから帰るっ!!』って叫んで、そのまま帰っちゃったんだって!
かわいそうよね~。何を企んでいたのか、知らないけどさぁ♪」
「なんか、とっても嬉しそうなんですけど?」
「なわけないでしょ、ばかね。わたしの優斗くんに、ひとりで抜け駆けしようとしてバチが当たったのは、まあちょっとは、アレだけども……」
「嬉しいんだね」
美玲ちゃんは、「言うな!」ってかんじで、ぼくに枕を投げつけた。
「まあでも、さすがは優斗くんね。萌の部屋の『異変』に気付くなんて」
「なになに、その『異変』って? 美玲ちゃん、なにか知ってるの?」
ドキドキしそうなワードにピンっと耳を立てたぼくに、美玲ちゃんは、ぽつぽつと話してくれた。
「あれは確か、萌が転校してきた日だったかなぁ……」
萌ちゃんが転校してきてすぐ、同じクラスになったふたりは意気投合。その日のうちに、美玲ちゃんは萌ちゃんの部屋に遊びに行っていた。
「そこで異変を感じたんだね?」
ごくりとつばを飲み込みながら、ぼくはさらにたずねる。
「うっすらと気配はするんだけどね。危険な感じはしなかったから、波長を合わせなかったんだけど……。そうか、まだいるのね」
「波長を合わす? まだいる? ねえねえ、それって、どうゆうこと?」
ベッドに飛び乗り、興味津々で聞くぼくの顔をのぞき込んで、美玲ちゃんが不敵な笑みを浮かべた。
「あんた、ほかのお化けにあったことないって言ってたよね? 友だち欲しくない? わたしが会わせてあげようか?」




