第2章 19
部屋のすみを陣取ったナオさんには、竜巻の影響がほとんどない。
それに引きかえ、腕をつかまれ、盾にされた美玲ちゃんの顔や手足には、飛んできた瓦礫や割れたガラス片があたって、いくつもの傷ができていた。
それなのに美玲ちゃんは、ナオさんを守るため、絶対にその場から逃げようとしない。
その姿を見て、ぼくの目に涙があふれてきた。
いまにも倒れそうなのに……、逃げ出したいはずなのに……。
そんな美玲ちゃんの顔に、容赦なくペットボトルがぶちあたった。
中の聖水が辺りに飛び散る。
そのとき、ぼくは見た。
見逃さなかった!
ナオさんが飛び散る聖水をよけて、しゃがみ込んだことに……!
とっさにぼくは、竜巻の中へ身を投げ込んだ。
ぐるぐると洗濯機のように渦巻く風に乗りながら、舞い散るお札の一枚にかみつく。
そのまま昇天しそうになる気持ちを、ぐっとこらえて、美玲ちゃんのそばに飛ばされるのを待った。
やがて、飛び回るガラス片や瓦礫とともに、美玲ちゃんの近くへ飛んでいく。
あいつは、気付いていない。
背中を向けて迫ってくるぼくの口に、お札がくわえられていることに!
ぼくの体が、美玲ちゃんの顔に激突する、刹那。
ふり向きざまのぼくと、いまにも力つきそうな美玲ちゃんの目が合った。
「……ミッケ」
その瞬間、美玲ちゃんは、すべてを悟ってくれた。
美玲ちゃんが、いきおいよく頭を下げる。
がら空きになったナオさんの顔面に、ぼくはくわえたお札を、バシっと貼付けてやった。
ぎゃぁぁああああああああああああっ!
断末魔のような叫び声を上げながら、ナオさんは崩れ落ちるようにして、その場に倒れ込んた。
ゴウゴウとうなりを上げていた竜巻の風はしだいに弱くなり、煙のような黒い影も、いつのまにかその姿を消している。
ようやく身動きが取れるようになった美玲ちゃんは、気絶して倒れている優斗くんとチャーシューのそばに駆けよった。
木の葉のように舞い降りたぼくも、みんなのもとに駆けよる。
気絶して倒れていたせいか、ふたりとも飛び交う瓦礫に当たることもなかったようで、たいしたケガは負っていなかった。
だけど、ふうっと安堵のため息をついた直後、ぼくの全身の毛は、波打つように逆立った。背後から漂ってくる凍てつくような冷気と、重くのしかかるような怖ろしい視線を感じたからだ。




