第2章 17
カタカタカタカタ……。
暗い診察室のどこからか、妙な音が聞こえてきた。
しだいにその音は激しくなり、ガタガタと地震でも起きているほどに大きくなった。
「ナオさん、手を離して!」
美玲ちゃんは、必死に幽霊と波長を合わせようとするが、
「無理無理、怖すぎ。美玲ちゃん、わたしやっぱり無理っぽい……」
ナオさんは、美玲ちゃんの腕にしがみついて離さない。
と、そのとき、診察室の引き戸が、凄まじい音を立てて、ひとりでに閉まった。
その音に驚いたチャーシューが、ノートPCを床に落としてしまった。
唯一の明かりだったノートPCの画面が消えて、診察室が漆黒の闇に包まれる。
それからはもう、怒号と悲鳴の大合唱だった。
「出た、出た、出おった! 出おったでぇ!」
「ぎゃあああ! わたしだめ、やっぱりだめ! 美玲ちゃん助けてぇ~」
「薫くん! アレ、どこ? アレちょうだい! アレなんだっけ、アレ!」
「落ち着け、蜂谷! 聖水を渡すから、そこらじゅうにぶちまけろ!」
「そうそれ! でもどこにいるの、薫くん!」
「そこいらにほん投げるから、拾って、ぶちまけえぇぇ!」
「痛っ! 美玲ちゃん、なにか頭に当たった! 助けて~」
「ナオさん、手を離して! わたし、何もできない!」
すると、床に落ちたノートPCが再起動したのか、緑色の画面の光が、診察室のなかをぼんやりと照らし出した。
瞬間、ぼくの背中の毛がぞわぞわと逆立った。
部屋の奥で煙のようにうごめく、不気味な黒い影を見つけてしまったのだ。
「ひぃやああああああ!」
思わず上げてしまった、ぼくの悲鳴で、またもやパニックが広がる。
「あああ、悪霊ぉおお、退散んんっ~~」
チャーシューは、リュックから取り出したいくつものお札を、黒い影に投げつけた。
優斗くんも、床に転がったペットボトルを拾っては、黒い影に向けて聖水をぶちまける。
しかし黒い影には、まったく効果がなかった。
お札も聖水も、煙のようにうごめく黒い影のむこうへ、すり抜けていくばかりだった。
黒い影は煙のように形を変えて、巨大な目玉を持つ人間らしき顔になった。
オマエモ、ワタシト 同ジ目ニ アワセテヤル……。




