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化け猫ミッケと黒い天使 〜エピソード0〜  作者: ひろみ透夏
第2章 ライオン☆ハート

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第2章 16

 

 ふたたび、廃病院の階段をあがる。

 四人になった美玲(みれい)ちゃんたちは、前にチャーシュー、うしろに優斗(ゆうと)くん、その真ん中を美玲(みれい)ちゃんと、美玲(みれい)ちゃんの腕をつかんで離さないナオさん。というフォーメーションで進んでいた。


 闇に包まれた階段をなんとかクリアし、四階の廊下へ足を踏み入れる。

 ぼくは、そのあとを少し遅れてついていった。


 人間より多少は夜目(よめ)が効くので、暗闇は得意なんだよね。


 四階の廊下は、木々に囲まれた一階よりも月明かりが差し込んでいるはずなので、美玲(みれい)ちゃんたちの歩みも速くなっているかと思いきや、みんなは四階の廊下の入り口で立ち止まっていた。


「この廊下のさきにある診察室が、幽霊が出るという噂の場所や……」


 緊張した面持ちで、チャーシューがつぶやく。


「電磁波センサーの数値が、さっきからずっと乱れっぱなしだ。もう近くにいるんだよ……」


 ガチガチと歯が当たる音が聞こえそうなほど、優斗(ゆうと)くんの声は震えている。

 美玲(みれい)ちゃんはといえば、ナオさんにずっと左腕をつかまれているので、左の耳たぶを引っぱれずにいた。


 波長を合わせないと、幽霊の姿が見えないってのに……。


「早く診察室に行きましょう! もう夜が空けちゃう!」


 そんな事情を知らないナオさんは、美玲(みれい)ちゃんの腕をつかんだまま歩き出した。

 真っ先に歩き出したナオさんの姿に、驚いた顔を見合わせていたチャーシューと優斗(ゆうと)くんも、覚悟を決めて足を踏み出す。


 割れた窓の外には、ざわざわと風に騒ぐ、山の木々が広く見渡せる。

 その少し上で、流れる雲にときおり姿をかくしつつ浮かぶ月が、四階の廊下を青白い月明かりで照らしていた。一階ほどではないけれど、四階の廊下も、割れた窓ガラスや、はがれ落ちた壁や天井などの瓦礫(がれき)が、あちこちに散乱している。


 そのなかを美玲(みれい)ちゃんたちは、敵に襲われないよう群れて泳ぐ小魚のごとく一塊になりながら、ゆっくりと進んでいた。




 やがて見えてくる、問題の診察室。

 開け放たれた引き戸の先に、月明かりは届いていない。


 チャーシューが、暗闇に沈んだ診察室にノートPCを向ける。赤外線暗視カメラを通すと、机や棚、診察用の簡単なベッドなどが置かれている様子が、緑色のモノクロームな陰影で確認できた。



「なにか……、見えちゃってる……?」


 画面を見ないよう、顔を背けながらたずねる優斗(ゆうと)くんに、チャーシューがノートPCから目を離さずにこたえる。


「幽霊らしき影は、どこにも映ってへんよ。ワイが昼間に来たときと同じ、荒れ果てた室内が見えるだけや……」 


 ノートPCをのぞきながら進むチャーシューを先頭に、四人が、ゆっくりと診察室の中へ足を踏み入れる。

 そのあとを、ぼくもついて行くと……。



 カタカタカタカタ……。




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