第2章 10
学校へ着くと、校門わきの垣根にうずくまって震えている人影を見つけた。
「なんや、怖くて震えとったんけ?」
「そ、そんなことないよ! さすがに夜は、少し冷えるなぁって……」
言い訳しながらふり返ったのは、優斗くんだった。
「寒い?」と、ぼくが頭の上から美玲ちゃんの顔をのぞき込むと、美玲ちゃんは愛想笑いを浮かべながら、「そ、そうね~」と二の腕をわざとらしくさすってみせた。
「そうか? ワイは暑いくらいや」
チャーシューはメガネを外して、首に巻いたタオルで顔の汗を拭くと、垣根の中に腕を突っ込んで、なにやら大きな荷物を引きずり出してきた。
登山にでも行くような、パンパンにふくれた大きなリュックサック。
「それにしてもきみら、まあまあの月明かりがあるとはいえ、これから夜の山道を歩くっていうのに、懐中電灯ひとつ持ってこんとは、なかなかのポンコツぶりやで?」
そういえば、美玲ちゃんも優斗くんも、まったくの手ぶらだ。
「夜中の外出で、ママの目を盗むことばかりに気を取られちゃって、ついね……」
「ぼくもあわてて、玄関に荷物を置き忘れたまま家を飛び出しちゃったんだ。ごめん」
申し訳なさそうに、あやまるふたり。
「まあ、ええわ。この超強力スーパーLED懐中電灯があれば、ヘタな懐中電灯を束で持つより、よっぽど役に立つからな」
リュックサックから取り出した、車のライトみたいに大きな懐中電灯を、チャーシューが得意げに見せびらかす。
「ほな、そろそろ行こか!」
通販で一万円もしただの、外国の軍隊で使用されているだの、面白くもない懐中電灯の自慢話を散々聞かされたあと、ようやくぼくらの幽霊退治が始まった。
校門から学校のわきへ回ると、廃病院のある裏山へと続く山道が見えてくる。
闇夜に浮かび上がる、巨大な黒い塊のような裏山を見上げながら、申し訳なさそうに優斗くんが話しかけてきた。
「ごめんね、黒崎さん。ぼくのせいで、こんな夜中に、こんな山のなかにまで……」
「ぜんぜん! 優斗くんのためなら、わたしなんだってするし!」
美玲ちゃんの告白じみた宣言に、目を丸くする優斗くん。
自分の言葉に恥ずかしくなったのか、美玲ちゃんはあわてて話題を変えた。
「で、でも、お姉さんすごいよね! ひとりで幽霊が出る廃病院に肝試しに行くなんて、フツーできないよ」
優斗くんが、首をかしげながらこたえる。
「ぼくもそこが不思議なんだ。姉さんは明るくて活発な性格に見られがちだけど、お母さんが言うには、幼い頃はぼくと同じで、とても大人しくて、怖がりな女の子だったそうだよ。あんなところへひとりで行くなんて、とても……」
そんな人が、無理してでも行く廃病院に、いったい何があったのだろう?
いまのところ、その理由は誰にもわからない。




