第2章 08
ウソ……、そんなはずない。ヤダヤダヤダ……。
「い、いま、ヤダって言ったよね? ねぇ、美玲ちゃん、助けてあげて!」
萌ちゃんが、美玲ちゃんの腕をつかんで訴える。
もちろん、録画された動画なので、助けたくても、今さら、どうすることもできない。
いつのまにか動画は、激しく揺れる映像に変わっていた。
きっと瓦礫の散乱する廊下を走っているのだろう。女性の乱れた息づかいが、撮影者がけんめいに『何か』から逃げていることをうかがわせた。
と、そのとき、鈍い衝撃音とともに、画面にノイズが走った。
直後に映っていたのは、瓦礫だらけの廊下でうつぶせに倒れている女性。
「なにかにつまづいて転んじゃったのよ。それで、カメラを落としちゃって……」
萌ちゃんが、美玲ちゃんの腕にしがみつきながら、震える声で言った。
床に落ちたカメラは、なおも現場を録画し続けている。
転んだ女性が、体を引きずりながらカメラに向かって手をのばす映像ーー。
その顔からは、すっかり血の気が引いていた。
と、そのとき、頭上にいるぼくにもわかるくらい、美玲ちゃんの体が、びくりと動いた。
とてつもないほどヤバい『何か』が、画面のすみに映っていたのだ。
倒れた女性の背後……。
辺りの光を吸い込むように迫る、漆黒の人影――。
きゃぁああああっ! ユウくん、助けて!
動画はそこで、とつぜん終わった。
部屋が、沈黙に包まれる。
「もしかして、ユウくんって……」
萌ちゃんが口をおさえながら、誰ともなしにつぶやく。
「そう。この動画は、学校の裏山にある廃病院で撮影されたもんや。……そして、撮影していた女の人は、蜂谷の姉貴」
チャーシューが、神妙な態度で言った。
見ると優斗くんはうなだれて、黙り込んでいる。
正座しているひざに、ぽろぽろと涙が落ちているのを見て、美玲ちゃんでさえ声をかけられずにいた。
「蜂谷の姉貴は、このあと廃病院に続く路上で倒れているのを、通りかかった新聞配達員に発見された。
家に帰ってからもひどく塞ぎ込んでいて、なにかの犯罪にでも巻き込まれたんやないかと、蜂谷の両親は心配しとる……」
「いまはどうしてるの?」 美玲ちゃんが、たずねた。
「かわいそうに。この日からずっと、小さなぬいぐるみを握りしめたまま、部屋にこもりっきりなんやて……。
わかるやろ? あの場所にうかつに近寄うてはならんのや。
新たな犠牲者が出るまえに、そして蜂谷の姉貴の敵を討つためにも、あそこにいる幽霊は、絶対に退治せなあかん! せやろ? 黒崎はん!」
美玲ちゃんは、うなだれたままの優斗くんをちらりと見てから、小さくうなづいた。




