第2章 06
「あら、優斗くんいらっしゃ~い! あなた、成績優秀で学年トップなんですってね? 美玲からよく聞いているわよ~。これからもあの子と仲良くしてやってね!」
家に着くなり、ママさんが玄関から飛び出してきた。ぼくの助言のすぐあと、萌ちゃんに借りた携帯電話で、美玲ちゃんが家に連絡をしたからだ。
ママさんはみんなをかき分けるようにして、一番うしろにいた優斗くんの両手を握ると、引っぱるようにして家の中へ招き入れた。
「あら、萌ちゃんもいるのね。いらっしゃい」
それから萌ちゃんにそっけない挨拶をして、とても小学生とは思えない、大きな体のチャーシューを見上げた。
「あなた、どなた?」
「となりのクラスの薫くんです。同級生なんですよ、そうは見えないでしょうけど……」
あわてて萌ちゃんが紹介すると、チャーシューはていねいにお辞儀をしてから家に上がった。
最後に家に上がろうとしていた美玲ちゃんの腕をむんずとつかんで、ママさんがたずねる。
「あの薫くんって子も、お婿さん候補なの?」
「はあ? ただの友だちだけど。それもごく短期間の」
「そうやって油断してると、いつのまにか仲良くなっちゃうのよ。ママみたいにならないよう、気をつけなさい!」
美玲ちゃんはため息まじりでその手をふり払うと、小声でママさんにたずねた。
「そんなことよりママ、わたしの部屋、片付けておいてくれた?」
「ばっちりよ! 将来有望な、美玲のお婿さん候補が、いらっしゃるんだから~」
ママさんは急いで家に上がると、みんなをリビングに招き入れた。お茶を用意してくれているらしい。
ママさんは美玲ちゃん以上に、優斗くん獲得に燃えているようだ。
「これを見てほしい」
リビングでママさんご自慢のパンケーキを頂いたあと、みんなで美玲ちゃんの部屋に移動して、緊急ミーティングが開かれた。
いつになく小綺麗な美玲ちゃんの部屋に、いつになく真面目なチャーシューの声が響く。
「これは一九九八年、イギリス郊外の、とある廃病院で撮影された心霊映像や」
チャーシューが持参したノートPCの画面には、暗視カメラで撮影したのであろう、緑色のモノクロームな陰影だけで撮影された病室が映っていた。
画面中央のパイプベッドのまわりに、破れた間仕切りカーテンが垂れ下がっている。画面下のカウントは進んでいるのに、病室の映像は静止画のように変化がない。
「これがなに? どうかしたの?」
と、美玲ちゃんが言った瞬間、映像が急に乱れて、天井に変わった。
バチっとはじけるような音が、ときおり聞こえてくる。
「わかるか? カーテンは揺れていなかった。風もないのに、カメラが倒れたんや……。ちなみにバチバチいうとるのは、霊がいるときに聞こえる、ラップ現象という音や」
「きゃああ。コワい~」
萌ちゃんがわざとらしい悲鳴を上げて、優斗くんの腕に抱きつく。
「まだまだ、驚くのは早いよ。問題はこの後さ」
いつになく不自然なしゃべり方でチャーシューはそう言うが、動画はずっと病室の白い天井を映したまま、変化がない。
「どこよ、どこどこ?」
美玲ちゃんをはじめ、優斗くんや萌ちゃんまでが画面に顔をよせたとたん、とつぜんカメラに何かが落ちてきたのか、画面が真っ黒になった。
「ぎゃあああああっ!」
さっきのかわいい悲鳴とは、まったくちがう声音をあげて、萌ちゃんがのけぞる。
「髪の毛だ。長い髪の毛がカメラに覆い被さってきたんだ……」
優斗くんも気味悪そうに口をおさえて、画面から目を背けた。




