第2章 04
「で、出た! チャーシュー」
「は?」という顔で美玲ちゃんを見つめるチャーシューに、美玲ちゃんはあわてて言い直した。
「チャ、ちゃちゃ、ちゃんと名前聞いてなかったわよねぇ? どちらさまでしたっけ?」
「ひどいわ、黒崎はん。昨日、初めて会うたときに自己紹介したやんか。放課後怪奇クラブ部長の、綾小路 薫です」
「あ、ああどうも……。よくここにわたしがいるのわかったね。ていうか、どうやってここに来たの? きみの体格じゃ、窓枠にはまっちゃうよね?」
「窓枠……?」
不思議そうな顔で、チャーシューは油の浮いたメガネをずり上げた。
「なんや、ふつうにドア、開いとったで?」
そう言いながら、片手に持っていた金属の塊をプールに捨てた。
すかさずぼくは、水底に沈んでいく塊に目を凝らす。それはまちがいなく、ここのプールサイドに続くドアの、ドアノブだった。
「早速やけど、黒崎はんに頼みたいことがあってきたんや。単刀直入に言うで、黒崎はん! あんたのチカラを見込んで頼んます。放課後怪奇クラブの部員になってください!」
「いやです」
「一刀両断やな! ワイらの街の平和を守るために頼んどんのやで!」
「はあ? なんですか? 正義の味方なんですか? 意味わかんないし~」
美玲ちゃんは、たまに見せる、ひとを小馬鹿にしたような態度で入部拒否をアピールしたが、チャーシューは、まったくあきらめる様子もなく、話を続けた。
「ええか? あの雑誌のせいで、素人さんが遊び半分であの廃病院に行きよるやろ? 肝試しやなんや言うて……。せやけどあっこにおる幽霊はほんまもんなんや! もう犠牲者も出とる!」
「犠牲者? ほんとに犠牲者が出たの?」
いぶかしげにたずねる美玲ちゃんに、チャーシューが大きくうなづく。
「せやから、これ以上犠牲者を出さんために、街の平和を守るために、三人目の部員になってほしい!」
「三人目って……、いまは二人しか部員がいないの?」
「だからこその勧誘や。黒崎はんが入ってくれれば、百人力やんか!」
(こんなむさ苦しい人たちのクラブに入るなんて、嫌だなあ……。
第一、もうひとりの部員って誰? どうせ、チャーシューに輪をかけたようなオカルトマニアなんでしょ、きっと。そんでもって、チャーシューみたいに話しまくるタイプのオタクじゃなくて、黙りこくって何考えてんだかわからないような、くら~いタイプのオタクなのよ。
ああ、でも勘違いしないで! オタクが嫌いじゃないの。さわやかでステキな男子なら、オタクだろうがオクラだろうが、なんだっていけるのよ。でも、百パーセントに近い確率で、そんな男子じゃないだろうし……。
でもまあ、気になるのは犠牲者がいるってことよね。そこは聞き捨てならない。もし、それが本当なら、どうにかしないと……。どう思う、ミッケ?)
というような顔でぼくを見つめるので、ぼくはとりあえず、うなづいてみせた。
美玲ちゃんは、ふんっと鼻でため息をつきながら、チャーシューに返事をした。
「とりあえず、もうひとりの部員を紹介して。あなたたちと一緒にやっていける自信が持てたら、わたしも入部します」
「やっほほ~~い!」と、チャーシューは巨体を揺らして小躍りすると、うしろにふり返って手まねきをした。
「こいこい蜂谷! オッケー出たで! これで幽霊退治ができるで、しかし!」
なんと、チャーシューに呼ばれてプールサイドに姿を現したのは、恥ずかしそうな表情を浮かべる、優斗くんだった。
ぼくはすかさず、美玲ちゃんの顔を見上げた。
今朝、ぼくは学校に行くのが、とても面倒で嫌だったけれど、結果的に美玲ちゃんの面白い表情がたくさん見れて、楽しい一日だった。




