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化け猫ミッケと黒い天使 〜エピソード0〜  作者: ひろみ透夏
第2章 ライオン☆ハート

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第2章 03

 

 お昼休み、みんなから逃げるようにして、美玲(みれい)ちゃんは誰もいない屋上のプールサイドに向かった。そのあとを、ぼくもついて行く。


「プールへ行くドアは(かぎ)がかかっているけど、ここの小窓(こまど)からプールサイドに出られるのよね」


 美玲(みれい)ちゃんはそう言いながら、となりのプール用具置き場の小さな窓に体をすべりこませて、プールサイドへ()りた。

 海風にのって、かすかに感じる(しお)(かお)り。

 プールの水面(みなも)に、()()った青い空と、くっきりとした輪郭(りんかく)の雲がうつる。


 もう夏は、すぐそこまで来ているのだ。



「大変だったね。いつもあんな感じなの?」


 プールサイドのベンチにふたりで座りながら、ぼくはとなりで()びをする美玲(みれい)ちゃんに話しかけた。


 もちろん、つまらない冗談(じょうだん)で教室を真冬(まふゆ)のように寒くした(けん)ではない。



「きょうは、いつもより(はげ)しかったかな。それもみんな、あの雑誌のせいよ……」


 ため息をつきつつも、美玲(みれい)ちゃんは気を取り直すように続けた。


「それよりミッケ、優斗(ゆうと)くんの様子(ようす)はどうだった?」



 ふだん()けることのない、キラキラした(ひとみ)で聞いてくる美玲(みれい)ちゃんに、ぼくはちょっと意地悪(いじわる)をしてやりたくなった。



「フツーだよ。とくに美玲(みれい)ちゃんを気にしている様子(ようす)はなかったね」


 元気よく()いていたひまわりが、とつぜん(しお)れていくみたいに、美玲(みれい)ちゃんの笑顔がしぼんでいく。


 ぼくは、あわてて本当のことを言った。



「うそうそ。美玲(みれい)ちゃんがみんなに(かこ)まれているとき、何度もチラチラと気にするように見ていたよ」


 美玲(みれい)ちゃんが、すがるような目つきで確認する。


「ほんと? ほんとに、ほんと?」


「うん」と、うなづいたぼくの目の前で、(しお)れていたひまわりが夏の日差(ひざ)しを()びたがごとく、いきおいよく花びらを開いていく。


 これが恋する乙女(おとめ)というものか。


 ふだんのぶっきらぼうで態度(たいど)のでかい、ドSの美玲(みれい)ちゃんの面影(おもかげ)はみじんもない。



「でもね、気を付けたほうがいいよ。美玲(みれい)ちゃん、人だかりでまわりが見えてないでしょ?」


 ニヤけながらも不思議そうな表情で見返す美玲(みれい)ちゃんに、ぼくは小声で忠告(ちゅうこく)した。


「その人だかりに優斗(ゆうと)くんがいないのは知ってるだろうけど、(もえ)ちゃんの姿(すがた)はあった?」



 とたんに美玲(みれい)ちゃんは、目も口も大きく開けて、放心(ほうしん)してしまった。


 やがてその埴輪(はにわ)のような顔の眉間(みけん)にしわを()せ、ギリギリと歯ぎしりを(ひび)かせながら立ち上がる。



(もえ)のやつめ~。わたしが必死で助けてやったのに、またも()()けしやがって~」



 ひまわりのように()いていた恋する乙女(おとめ)の笑顔が、みるみるうちに鬼の形相(ぎょうそう)に変わっていく。ぼくは人間の多面性(ためんせい)というのものを、まざまざと見せつけられた。



「落ち着いて美玲(みれい)ちゃん。きっと(もえ)ちゃんは、自分の感情に素直(すなお)なだけだよ。たぶん優斗(ゆうと)くんだって、美玲(みれい)ちゃんのまわりから人だかりが消えれば、話しかけてくるよ。美玲(みれい)ちゃんのこと、ずいぶん気になっていたみたいだし……」



「きっととか、たぶんとか、みたいとか! 全然、はっきりしないわねっ!」



「……まあ、いいか」と、つぶやきながら下ろそうとした腰をふたたび上げて、美玲(みれい)ちゃんは大声で(さけ)んだ。


「まったく! これもみんなあのオカルト雑誌のせいだわ! せっかくわたしの(うわさ)も落ち着きかけてきたっていうのに、なんでこんなタイミングで近所の心霊スポットを特集するかな! ほんと(ゆる)せない、あの雑誌!」


「せやねん、(ゆる)されへんやろ? この裏山の(はい)病院は、ワイが昔っから目を付けていた場所やねんで」



 とつぜん話しかけられて、美玲(みれい)ちゃんとぼくは飛び上がるほど驚いた。


怒鳴(どな)りたなる気持ちもわかるわ。でも黒崎(くろさき)はん、ひとり(ごと)は小声でするもんやで」


 そこには、相撲取(すもうと)りのような巨体(きょたい)()らして近づいてくる、チャーシューの姿(すがた)があった。




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