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【第一話】「今日も異世界へお届けです!」

どうもこんにちは、作者です〜

皆さん一度は見たことがあるでしょう――

「トラックに轢かれて異世界転生!」


……でも、考えたことありますか?

そのトラック、誰が運転してるんだろう?


というわけで今回は、「異世界転生トラックの運転手」という裏方にスポットライトを当てた物語です。

彼らにも彼らの仕事があり、ノルマがあり、上司(神様)がいて、そして――たまにブレーキが壊れます。


笑って読める異世界転生の舞台裏。

今日も安全(?)運転でお届けします!

 午前六時。

 トラック転送株式会社・異世界課の駐車場には、ずらりと並んだトラックがエンジン音を響かせている。

 ひときわボロい車体の横で、俺――天道てんどう じんは、コーヒーをすすりながら今日の転生者リストを眺めていた。


「えーと……今日の納品先は異世界アルセリア王国とスライム生息圏No.7。で、転生予定者は……三名っと」


 一人目:高校三年生、交通事故により死亡予定。

 二人目:ブラック企業社員、過労死予定。

 三人目:トラックに轢かれて転生予定。


「……おい三人目、俺かよ」


 いつも通りのスケジュールに、思わず突っ込みが出る。

 どうせ予定のままだ、気にすることはない。俺の名前がリストに載るのも、一種のシステムバグだ。


「おーい、仁くーん」


 駐車場の奥から、金髪で翼の生えた上司――神崎かんざきミカエル部長が飛んできた。

 いかにも天界人然とした白いスーツ姿。だがその口調はどう聞いても中間管理職だ。


「おはようございます、部長。今日もノルマ三件です」

「ん? 三件? はぁ~……少ないじゃないか。ほら、他の世界では五件配ってるドライバーもいるんだぞ?」

「えぇ、でも昨日は二件でしたし、ちゃんと平均ノルマは――」

「ダメダメダメ! “平均”とか言い出すやつは、神界出世できないタイプだぞぉ!」


 また始まった。

 ミカエル部長のノルマ講座は、もはや朝の風物詩だ。


「いいか仁くん、我々は死と再生の物流業なんだ。地球と異世界を繋ぐ架け橋! つまり、神界のクロネコヤ○トだ!」

「でも配達ミスったら、人間一人の人生終わりますけどね」

「そこがスリルだろう! そういうの好きだろ、若いんだから!」


 好きじゃねぇよ。

 俺はただ、安全運転で異世界に人を転生させたいだけだ。


 ミカエル部長は腕時計(という名の天界デバイス)をちらっと見て、にっこり笑った。

「ま、文句はあとだ。時間だぞ。今日も“転生便第一号”出発だ!」

「了解です。……あの、今日のトラック、またブレーキ効かないやつじゃないですよね?」

「うん、それは昨日スライム界に突っ込んだよ」

「突っ込んだの!?」


 ため息をつきながら、俺は運転席に乗り込む。

 ダッシュボードには、神界仕様の「転生カーナビ」が鎮座している。目的地は“アルセリア王国・首都手前の馬車通り”。


 エンジンをかけると、ナビが機械音で喋り出した。

『本日の転生予定者は、都内在住・高校三年生・死亡確定まで残り十二分です』

「……あー、またギリギリだな」


 フロントガラス越しに見える朝焼けが、やけにきれいだった。

 今日も人を異世界へ運ぶ――それが俺の仕事。


 アクセルを踏み込み、トラックは光の粒に包まれて消えた。


 ――異世界への“配達”が、今日も始まる。



 ブオォォォン……!


 トラックが光の粒を抜けると、そこは東京都郊外。

 まだ朝の通勤ラッシュが始まる前の時間帯だ。

 ナビが静かに告げる。


『転生予定者、まもなく交差点に進入します。死亡予定時刻まで残り三分』


「了解。今日も安全第一……いや、“事故第一”か」


 毎回思う。

 なんで俺は“人を轢く”ことで給料をもらう仕事をしてるんだろう。

 倫理観がゴミ収集日に出されたみたいに消し飛んでる。


 とはいえ、異世界トラック運送課は天界直属。

 “必要悪”というやつである。

 転生の演出はドラマチックでなければならない。

 ――だから、今日も俺は指定された時間と場所で“偶然を装って”事故を起こす。


『予定者、進行方向左前方。横断歩道に進入します』


「よし……この信号を青で突っ込めば完璧……」


 俺はアクセルを軽く踏み込み、視線をやる。

 そこには、制服姿の男子高校生――今日の“お届け先”がいた。

 耳にはイヤホン、手にはスマホ。典型的な“異世界送り対象者”だ。


 だが。


「……え?」


 彼は赤信号をちゃんと待っていた。


『予定者、交通安全意識が高すぎます』

「嘘だろ!? お前、そういうタイプじゃないだろ普通!」


 予定が狂う。

 ブレーキを軽く踏みながら、俺は頭を抱えた。


『残り時間、二分三十秒』

「くっ……こうなったら、“落下物誘導パターン”だ!」


 俺はカーナビのスイッチを操作する。

 トラックの荷台から、“偶然を装った転生促進アイテム”――

 すなわち、「謎のバナナの皮(天界製)」を取り出して、そっと窓から投げ捨てた。


 バナナは見事に高校生の足元に――


「おっと、危ねっ!」


 ピョン、と軽くジャンプして回避。

 しかも着地がバク宙。


『予定者、身体能力が異常に高いです』

「なんでだよ!? 転生前からチートかよ!!」


 タイムリミットは残り一分。

 信号が青に変わり、少年が横断を始めた。

 だがその歩き方は、まるで“命大事に”モード。

 一歩ずつ慎重に足を運んでいる。


「まずい、このままだと予定ズレる……!」

『このままではノルマ未達です』

「うるせぇナビ! じゃあ俺が悪者になるしかねぇか!」


 俺は深呼吸をして、アクセルを――

 ほんの少しだけ強く踏み込んだ。


 その瞬間。


「おっと! スマホ落とした!」


 彼がかがんだ瞬間、トラックの前をひょいと避けるようにしゃがみ込む。


 ドゴォォォンッ!!


 俺のトラックは街路樹に突っ込んだ。


 ……十秒後。

 煙を上げるフロント部分。エアバッグに押し潰されながら、俺は天を仰いだ。


「ははっ……今日も平和だな……」

『予定者、生存確認。死亡予定キャンセル』

「マジで!? キャンセルとかできるの!?」

『上司に報告します』

「報告しなくていいって!!」


 トランシーバーが鳴った。

 プチッという音と共に、ミカエル部長の声が響く。


『仁く~ん、今“事故不成立”通知が来たけどぉ~?』

「いえ、部長、今ちょっと予定者が“命にしがみつく系”でして……」

『またかぁ! これで今月三件目だぞぉ!?』

「すみません、次は必ず転生させます!」

『そう言って前回も、なぜか自転車避けられたよね?』

「交通安全意識が高いんです、最近の若者!」


 通信が切れる。

 俺はため息をついて、ゆっくりとシートから体を起こした。


 通りの向こうでは、例の高校生が頭を下げている。

「すみません! 僕、スマホ拾ってて! 大丈夫ですか!?」

「……ああ、こっちは大丈夫。君も、気をつけろよ」

「はいっ!」


 ――転生失敗。

 だが、妙に晴れやかな気分だった。


『次の予定者、出発準備完了です』

「……次こそ成功させてやる」


 俺はトラックをバックで道路に戻し、再び光の中へ消えていった。



 転生一件目――失敗。

 その報告を天界に送った直後、俺のトラックの無線機がピピッと点滅した。


『――おい、天道。相変わらずノルマ未達らしいな』


 聞き慣れた、鼻につく声。

 フロントガラスの向こう、遠くの光の裂け目から真っ赤なトラックが姿を現した。

 車体の横には金文字でデカデカと書かれている。


 「転生急便・異界特急課」


「あぁ……出たよ、“赤トラ”の奴」


 運転席の窓が開き、サングラスをかけた男が顔を出した。

 オールバックに無駄にキラキラしたネクタイ。

 神界でもっともウザい男、黒羽くろばねケルヴィン。


「よぉ、仁。今日も“安全運転(笑)”か? お前、事故起こさないトラックドライバーって存在意義ある?」

「お前は事故しか起こさねぇだろ……。どこの世界でも安全第一だ」

「はっ、甘ぇな。ウチは“最速転生”がウリなんだよ。信号? 関係ねぇ! 轢けりゃ納品完了だ!」


 その瞬間、ケルヴィンのトラックの荷台がバコンと開いた。

 中には大量の光の球――転生待ちの魂がぎっしり詰まっている。


「おい、それ運搬ルール違反だろ!? 魂は一件ずつ扱うのが規定だぞ!」

「細けぇこと気にすんなって! うちはスピード勝負だからよ!」


 そう言って彼はアクセルを吹かし、俺のトラックの横に並んだ。

 まるでストリートレース。いや、異世界転生レースだ。


『次の予定者、同一交差点に接近。死亡予定まで残り四分』

 ナビが告げた瞬間、ケルヴィンがニヤリと笑った。


「ほぉ? そいつ、俺のリストにもあるな」

「は? なんで被ってんだよ!」

「神界システムの二重登録だろ。つまり、早く轢いたほうの勝ちだ!」


 ブオォォォォン!!!


 二台のトラックが同時に走り出す。

 目的は――一人の転生者を誰が先に異世界へ届けるか。


「クソッ、勝手に競争すんな!」

「負けた方は魂再研修コースだぜぇ!」


 ケルヴィンの赤トラックが猛スピードで前に出る。

 信号? 無視。

 歩行者? 華麗にスライド。

 もはや物理法則を笑うレベルのドライブだ。


『天道さん、速度制限を超過しています』

「うるさい! 今だけ許せ!」


 俺はギアを上げ、トラックを加速させる。

 目的地の交差点が見えた――その中央に、イヤホンつけたスーツの男。

 次の“納品対象”だ。


 ケルヴィンの赤トラックが先に突っ込もうとする。

 だが、俺は荷台のスイッチを押した。


「くらえ、“偶然の道路工事”!」


 荷台の上から天界製のオレンジコーンとバリケードが自動展開、

 赤トラックの進路を完全封鎖!


「おいっ! ずりぃぞ天道ォ!」

「ルールの範囲内だ! “偶然”の演出だよ!」


 俺はスッとハンドルを切り、交差点に進入。

 だが、その時。


「おっと……またスマホ拾ってるよあの人!」


 予定者は何かを落としたらしく、しゃがんだ。

 ケルヴィンのトラックがバリケードをぶち破り、俺の横を抜けて――


 ――ドゴォォォォン!!


 見事に街灯に突っ込んだ。


「はっ、ざまぁみろ!」

 と思った次の瞬間、ナビが告げる。


『予定者、スリップ回避成功。無傷です』

「なんで毎回助かるんだよ!?」


 ケルヴィンが窓から顔を出し、煙の中で叫ぶ。

「おい天道ぉぉ! お前んとこの地球、最近安全教育行き届きすぎだろ!」

「知らねぇよそんなもん!」


 二人して、交差点のど真ん中で頭を抱えた。


 ……結果、二人ともノルマ未達。


 数分後。

 空から雷鳴とともに現れたのは、スーツ姿の天使――ミカエル部長。


『おいおい、また事故“未成立”か。しかも二社合同で』

「す、すみません部長! こっちは安全運転を――」

「いやウチはスピード配送を――」

『どっちも黙れ! お前ら、今週のボーナス、ソウル支給なしだ!』


「「ひでぇ!!!」」


 怒号と笑いが入り混じる中、空に戻っていく部長の姿を見上げながら、

 俺とケルヴィンは顔を見合わせた。


「……なぁ、昼飯行くか」

「ああ、焼肉奢れよ」

「なんで俺が!?」


 今日も異世界の平和は守られた――ような気がした。



 昼休み。

 俺とケルヴィンは、地球と天界の狭間にある休憩所――“ハイウェイ天界PA”で焼肉定食をつついていた。


「お前、やっぱ焼肉は塩派か?」

「タレ派だ。魂も焼くなら濃いめがいい」

「やめろ、その比喩こわいから」


 そんな他愛ない会話をしていた、その時だった。


 ドゴォォン!!


 天井から光の柱が落ち、

 金ピカの翼を生やしたスーツ姿の女が現れた。

 手には分厚いバインダー、胸には“天界監査局”のエンブレム。


「――天界査察官、アズリエル=クラークです」


 その声だけで、店内の空気が凍る。

 俺とケルヴィンは反射的に背筋を伸ばした。


「ちょ、査察官!? なんで今日に限って!?」

「お静かに。あなた方、“異世界転生配送課”への業務監査に来ました」


 アズリエル査察官は無表情のまま、分厚い書類を机に叩きつけた。


「転生未成立、納品遅延、魂の混入、異世界誤配送――ここ一ヶ月で四十三件。しかも今日だけで“予定者生存”二件」

「えっ、二件って……え、俺とケルヴィンのやつ?」

「ご名答」


 冷たい笑み。

 ケルヴィンが小声で呟いた。

「やっべぇ、今日マジで来るとは思わなかった……」

「まさかの抜き打ち天界査察だな……!」


 アズリエルは書類をめくりながら、こちらをじろりと見た。


「天道仁さん。“業務中に魂投げバナナを使用した”との報告がありますが?」

「あっ、それは“偶然の演出”です。演出費用も自己負担ですし」

「異世界法第十四条、“過剰演出による死亡誘導は禁止”。ご存知ですか?」

「……はい(知らなかった)」


 次にケルヴィンへ視線が向く。

「黒羽ケルヴィンさん。“複数の魂を一度に荷台へ詰め込み運搬”。こちらは?」

「時短っすよ。エコ転生です」

「それ、完全に違法マルチ転生です」

「……やべぇ、名前が既に犯罪の香りしかしねぇ……」


 アズリエルは深くため息をついた。


「あなたたち、まるで命をおもちゃにしている。異世界転送は神聖な儀式なんですよ」

「いえ、我々としても真面目に――」

「“バナナ”を投げるのが真面目ですか?」

「……演出、です」

「“安全運転(笑)”と書かれたマグネットを貼るのが真面目ですか?」

「……それ、ケルヴィンです」

「“地球人魂お買い得セール”のチラシを配ったのは?」

「それ俺じゃねぇ!!」


 店の隅で、焼肉を焼いていた店員(多分元・天使)がボソッと呟いた。

「また異世界課、やられてんな……」


 アズリエルはバインダーを閉じ、きっちりとした口調で告げた。


「あなたたちには、再教育プログラムを受けていただきます」

「再教育!?」

「そうです。“天界交通安全講習”です」


 地獄のような単語が出た。

 天界講習――それは、眠気と退屈が地獄より辛いと噂される最悪の教育プログラム。


「講師はもちろん、あのセラフ交通教官。説教の天才です」

「マジかよ……!」

「まさか生きてるうちにセラフ教官の“信号の歌”をまた聴くことになるとは……!」


 アズリエルは淡々と書類にサインをし、

 最後に冷たい笑みを浮かべて言った。


「以上、業務査察は終了。午後三時、天界第七講堂に集合。遅刻した場合は――」


 バサッと書類を閉じて一言。


「――転生です」


「「それが一番ヤバい罰じゃねぇか!!!」」


 アズリエルの光が消えると同時に、

 俺とケルヴィンは顔を見合わせ、同時にため息をついた。


「……なぁ、もう転職しね?」

「いや、転職してもどうせ転生させられるだろ」

「たしかに」


 二人で同時に笑い、焼肉の残りをかき込んだ。

 焼け焦げたカルビが、なんだか魂の味がした。




 午後三時、天界第七講堂。

 白い雲の上に建てられた巨大ホールの中、俺とケルヴィンは並んで椅子に座っていた。

 前方には、“天界交通安全”の横断幕。

 空気は異様に重い。


「なぁ仁……なんかこの講堂、空気悪くね?」

「当たり前だ。ここ、前回事故起こした天使たちの幽霊が出るって噂だぞ」

「やめろマジで怖ぇ!」


 ドンッ、と講堂の扉が開く音が響いた。

 入ってきたのは、筋骨隆々の大男――白い翼を広げ、金色の笛を首からぶら下げている。

 その目には一切の慈悲がない。


「――私が担当教官、セラフ=マルクスだァ!!!」


「「ヒィィィ!!!」」


 噂通りだった。

 この男、元・熾天使にして元・軍用運転教官。

 異世界配送課の全ドライバーが恐れる、地獄の講師である。


「よぉし貴様らァ!! 本日は“天界交通安全再教育プログラム”だァ!!!」

「(声でかい!!)」

「貴様らのような愚か者が、無辜の魂を事故らせぬよう、みっっちり叩き直す!!」


 そう言うと教官は、スクリーンを指さした。

 再生されたのは、俺たちのトラックのドライブレコーダー映像。


『おっと、危ねっ! バナナが!』

『予定者、身体能力が異常に高いです』

『なんでだよ!? 転生前からチートかよ!!』


 ――再生時間わずか三秒で、会場が爆笑に包まれた。


 セラフ教官のこめかみがピクピクと震える。

「笑ってる場合かァァ!! この映像、天界ニュースでバズってんだぞ!!」

「バズってるの!?(いや褒めてくれや!)」


「次ッ! 赤トラックの男!!」

「お、俺っすか!?」

『赤信号? 関係ねぇ! 轢けりゃ納品完了だ!』

「……お前、今ここで何言ったか理解してるか?」

「……はい、社会的に死にました」


 教官は無言で黒板にチョークを走らせた。

 そこに書かれたのは――


 「転生=愛」


「お前らァ!! 転生はなァ! 命を繋ぐ“愛のリレー”なんだよォ!!!」

「は、はい!!!」

「バナナを投げるなァァ!!」

「はいぃ!!!」

「魂を詰め込むなァァ!!!」

「ごもっともぉ!!!」


 講堂に響き渡る怒号と説教。

 まるで軍の訓練所。

 隣でケルヴィンが小声で呟く。


「なぁ仁……俺もう、異世界転生の夢見ることすら怖くなってきた」

「俺もだ……」


 その時、教官が唐突に笛を吹いた。

 ピィーーーーッ!!


「よぉし! 実地訓練に移る!!」


「じ、実地!?」


 気づけば俺たちは、講堂の外――雲の上に広がる白銀のコースに立っていた。

 そこには天界仕様の練習トラックが二台。

 教官が叫ぶ。


「制限速度、時速二十! 信号無視厳禁! 歩行者は全員天使だ! 轢いたら即・転生だァ!!」

「(転生って罰がもう重すぎる!!)」


 スタートの合図が鳴る。


 ブォン……!


 俺とケルヴィンは慎重にアクセルを踏み、ゆっくり進む。

 前方には“歩行天使”が横断している。

 その一人がわざとらしくゆっくり歩いた。


「仁、あれ絶対トラップだろ」

「止まれ、止まるんだ! ここで轢いたら俺ら本気で転生させられる!」

「でも制限時間がっ!」

「いい! 今は安全第一だ!」


 俺はブレーキをしっかり踏み込み、天使が渡りきるのを待った。


 ピィィィィィッ!!


 セラフ教官が笛を吹きながら叫ぶ。

「よぉし天道!! それだ!! それが愛だァァ!!!」

「(やったぁ……初めて褒められた……)」


 一方のケルヴィンは、

 「ちょっとだけ早く行けるっしょ」と言ってアクセルを踏み――


 ドゴォォォンッ!!


 見事にハトを轢いた。


「「あああああああああああ!!!」」


 教官の顔に深い影が差す。

「黒羽ケルヴィン……貴様、補講決定だ」

「ま、待ってください! ハトです! 魂は軽いです!」

「言い訳無用!!!」


 雲の上に雷が鳴り響く。


 ――その夜。

 講習を終えた俺たちは、真っ白に燃え尽きていた。


「……仁、俺、もう違反しねぇよ」

「俺もだ。次からは愛を持って事故る」

「いや、事故るなよ」


 二人して笑い合う。

 空には夕陽が差し、雲の向こうに無数の異世界ゲートが光っていた。


 明日もまた、誰かが異世界へ旅立つ。

 俺たち転生トラック運転手の、日常は――まだまだ続く。


【第一話・完】

ここまで読んでいただきありがとうございます!

第1話は“転生ドライバー・天道仁”の一日目でした。


「異世界転生=トラック事故」というテンプレに、

「運転手がプロの配送員だったら面白いのでは?」という発想から生まれたこのシリーズ。

書いてる本人も、だんだん異世界配達員の気分になってきました。


次回は、

・転生者の回避能力が高すぎてまったく轢けない

・ライバル会社“ヘブン急便”との仁義なき争奪戦

などなど、さらにバカバカしくて忙しい日常を描く予定です!


感想や「この世界の配送トラブルネタ」などあれば、ぜひコメントで教えてください。

では次回も――


「異世界へのお届け、今日も安全運転で!」

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