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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
四つ辻にて待つ
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四つ辻にて待つ(6)

 深夜。誰もいない幹線道路に二階堂の姿はあった。

 一緒にいるのはヒナコと依頼人である杉崎スミレだった。

 二階堂が杉崎スミレをわざわざ連れてきた理由。それは、今回の件の依頼人である彼女に事の顛末を見せておく必要があると思ったからだ。

 まず二階堂がやったのは、四本の缶ジュースを片付けるということだった。これによって封じられていた四門と呼ばれる四聖獣が守る扉を復活させることができる。

 常世の扉を開いたのは、あのカーディガンの女である。誰が彼女を呼び出したかはわからないが、彼女が呼び出されたことに寄って常世の扉が開かれた。本来、常世の扉が開かれた際に四門に四聖獣の姿があれば、すぐさまその扉は閉じられるはずなのだが、その四門が封じられていたために常世の扉は開きっぱなしとなってしまった。おそらく、そうなるように仕組んだのは、鬼門晴明と匿名掲示板で名乗っている人物だと二階堂は考えていた。

「ねえ、先生。本当にいいの?」

「仕方ないだろう。彼女だって、こっちにいたくているわけじゃないんだ。帰るための扉を開けてやる必要がある」

「そうだけどさ……」

 どこか心配そうな顔でヒナコは二階堂のことを見ていた。

「あの、わたしはどうすればいいのでしょうか?」

 杉崎スミレが二階堂に話しかけてくる。彼女も心配そうな表情を浮かべていた。

「そうだな。このメガネを預かっておいてくれ」

「メガネですか」

「ああ」

 そういって二階堂は自分のかけていた色付きのメガネをスミレにかけさせた。

 預かっておいてくれといわれたので手渡されるものだと思っていたスミレは驚きを隠せなかった。そして、それ以上に驚いたことがあった。先ほどまで、ここには二階堂と自分しか居なかったはずなのに、二階堂のとなりに背の低い黒髪の少女が立っていたのだ。

「え? え?」

 明らかに困惑した声をスミレはあげる。

「少し離れていた方がいい」

 スミレの困惑など気にしないといった様子で二階堂はそう告げると、ひとりで離れたところへと歩いていってしまった。その場には、スミレと少女が残されていた。

「大丈夫だよ。先生なら」

 少女はそう言ってニッコリと微笑んでみせた。

 ひとりで横断歩道を渡った二階堂は、深呼吸を一度してから指で印を組むと、真言を唱えだした。

 すると、黒い霧のようなものが立ち込めてくる。それは瘴気だった。横断歩道の向こう側ではヒナコとスミレが瘴気を吸わないように口元をハンカチで押さえている。

「何をしに来た」

 どこかから声が聞こえてくる。女の声だ。

「何をしに来た」

「俺はあんたを助けたい」

 ぼんやりと瘴気の中に現れた人影に対して二階堂は言った。

「何を言っている」

「あんただって、こんな場所にいつまでも居たいとは思っていないはずだ。本当は成仏したいのだろう。本来であれば次の人生を歩めていたはずなのに、それを邪魔された。そうなんだろう」

「何がわかる。お前に何がわかるというのだ!」

 瘴気の中から女が姿を現した。その黒い髪はボサボサに乱れており、大きく見開かれた目からは血の涙が流れている。そして、その顔は怒りで大きく歪んでいた。

 前に見た時よりも、それは酷くなっていた。おそらく、長時間瘴気に触れていたため、侵食されてしまったのだろう。もしかしたら、もう手遅れなのかもしれなかった。彼女はただの幽霊から呪霊へと変化してしまったのかもしれない。もしそうであれば、彼女を救うには祓うしかなかった。

「アイドルだったあなたにもう一度逢いたい。そんな一方的な生者のエゴが、あなたを現世へと呼び戻してしまった。さらにはそれを利用して、現世と常世の扉を開けようと企む奴までいる。あなたはどう考えても被害者だ。だから、あなたを成仏させてあげたい」

「ふん、何を言っている。わかったような口きくな。お前はただの偽善者に過ぎない。お前はわたしに喰われればいいのだ」

 女はそう言うと大きく口を開けた。その顎が外れたかのように大きく開かれた口の中には、無数の手が生えており、その手が二階堂へと襲いかかってきた。

「先生、逃げてっ!」

 ヒナコが叫ぶ。

 二階堂は一瞬遅れて、後ろに飛んだが、間に合わなかった。

 無数の手が二階堂を掴み、勢いよく振り回す。身体がバラバラになってしまうのではないかと思えるほどの衝撃で二階堂の身体は地面に叩きつけられる。

 気を失ってしまいそうだった。しかし、気を失えば、常世へと連れて行かれてしまう。二階堂は必死に意識を保ちながら、指を合わせて印を組んだ。

「すまない、俺の力不足だ……」

 呟くように二階堂は言うと、真言を唱えた。

 それは悪霊を祓うための真言だった。本当は彼女を救ってやりたかった。だが、間に合わなかったのだ。

 二階堂が真言を唱えると、二階堂の腕や足を掴んでいた手の力が弱まった。そして、彼女は苦しみだす。彼女の口から伸び出ていた手が蒸発するかのように消えていき、彼女の身体も雪だるまが溶けていくかのように崩れだす。

「許さない……わたしは、お前を許さない……」

 彼女は血の涙を流しながら二階堂のことを睨みつけると、そのまま浄化されていった。

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