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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
四つ辻にて待つ
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四つ辻にて待つ(5)

「とんでもないものを引き当てたじゃないか、二階堂」

 喫茶店のテーブル席で細面で顎に無精髭を生やした貧素な顔立ちの男が二階堂に言う。

 男は恵比寿という名であるが、その風貌は名前とは大違いで、どちらかといえば恵比寿というよりも貧乏神といった名が似合っている。服装もそれっぽく、よれよれのTシャツに裾がボロボロになったジーンズで足元はサンダル。髪はボサボサで長く伸ばされており、ヒッピースタイルのようにも見えなくはないが、ただの面倒くさがりなだけであり、何のこだわりもなく生きている男だった。

「お前が紹介してきた客だろ」

 杉崎スミレが二階堂を頼ってきたのは、この恵比寿からの紹介だった。恵比寿はどこで知り合うのかはわからないが、老若男女様々な依頼人を二階堂のもとへと送り込んできていた。

 ある意味、恵比寿は二階堂にとって招き猫、いや福の神のような存在なのかもしれないが、恵比寿の紹介でやってくる客は大抵、とんでもないトラブルを持って二階堂のところへと現れるのだった。

 それは今回も例外ではなく、そのことを言ってやろうと思って、恵比寿を喫茶店へと呼び出したのである。

「でも、上客だったろ」

「そういう問題じゃない。あやうくこっちは死にかけたんだぞ」

 二階堂の言葉に隣に座っていたヒナコも首を勢いよく上下させてうなずく。


 あの日、二階堂たちの目の前に現れたのは、杉崎スミレの言っていた赤いカーディガンの女であったが、それよりも強力なバケモノが後ろに控えていた。

 これは二階堂の推測であるが、あの赤いカーディガンの女は誰かが儀式によって呼び出した死者なのだろう。そして、その背後に控えていたバケモノは、女の霊魂を現世(げんせ)に呼び戻させて常世(とこよ)現世(うつしよ)の扉を開かせるために誰かを操ったのだ。ああいったバケモノは人間の心の隙間に入り込んできて、いとも簡単に操ってしまう。操られた方は何もわからず、悪いことをしたといった意識も無いはずである。おそらく、今回も言葉巧みに誘導して、女の霊魂を現世に呼び戻すための儀式をさせたに違いない。その証拠として、供え物としての缶ジュースが召喚の降霊の儀式で使われる配置になっていた。あれは四門を守る玄武、白虎、青龍、朱雀の四聖獣を缶ジュースで封じて、鬼門と裏鬼門を開けさせるという素人では考えつかないような手法が取られていた。

 問題は、誰がどうやってあの方法を指示したかということだ。


「それで、目星はついているんだろう」

「もちろんだ。だから、お前を呼んだんだよ、恵比寿」

「嫌な予感しかしないんだが」

 そう言いながら、恵比寿はアイスコーヒーをストローで啜る。

「さすがだな、嫌な予感はよく当たるっていうからな」

「おいおい、やめてくれよ。おれはまだ……」

「鬼門晴明」

「なんだそりゃ」

「ふざけた名前だろ。インターネットの匿名掲示板に書き込みをしていたやつの名前だよ。そいつが他人に指示をして、常世と現世の扉を開けさせて、現世にバケモノを連れてきやがった」

「調べたのか?」

「馬鹿にするな。俺の本業は探偵だぞ、忘れたのか」

「そうだったな……。おれはてっきり祓い屋かと」

「いや、探偵だ」

 睨むような眼で二階堂は恵比寿のことを見ながら言う。

 あくまで二階堂は探偵なのだ。そこには二階堂のこだわりがあった。

「それで、おれは何をすればいいんだい」

「簡単なことだよ。鬼門晴明になりすまして匿名掲示板に書き込みを繰り返してくれればいい」

「なるほど。それで本物をあぶり出そうっていうのか」

「できるか、恵比寿」

「そんなことでよければ、朝飯前だ」

 任せろと言わんばかりに恵比寿はにやりと笑ってみせた。

「それで、お前はどうするんだい、二階堂」

「俺か。俺はあの場所へもう一度行く」

「はあ? なんでまた危険な目に遭いに行こうっていうんだ」

「彼女を救ってやなきゃならん」

「お前ってやつは、どこまでお人好しなんだ。あれはどこぞの誰かが鬼門晴明っていう悪いやつに騙されて呼び出された霊魂だろ。そんなのまで救ってやってたらキリがねえぞ」

「出会ってしまったのも縁ってやつだよ」

「……お前には付き合いきれん」

 恵比寿はそう言うと、自分の仕事をさっさと片付けようと、持ってきたバックからラップトップパソコンを取り出してテーブルの上に置いた。


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