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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
九十九

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77/77

九十九(7)

「よく知っているな。その通りだよ」

「十二支は安倍晴明の十二天将に似た式神よね。その式神たちの力は強力で、桂川家でも十二支全部を調伏できたのは、三人しかいないって聞いてるけれど、あんたで四人目ってことなのね」

「そうだよ。なんでうちの事を知っているんだ」

「知っているよ……。あんたのところとは長い付き合いだ。賀茂家と安倍家が陰陽寮をふたつに割るような権力闘争を繰り広げた際に、安倍家側に桂川家がついた頃から知っているよ」

「あんた、何者なんだ……」

 その歴史は表には出ていない事実だった。平安時代中期、桂川家は陰陽寮に属する陰陽師の家だった。そして、当時の陰陽寮を二分していた勢力である加茂家と安倍家の争いの際に、桂川家は安倍家についたのだった。その結果、桂川家は陰陽寮における地位を保つことができ、現代まで陰陽師の家系として残ることができていた。

「ただの物知りみたいなもんだよ」

「鬼門晴明……その名前は何かの皮肉なのか」

「まあ、そうかもしれないわね」

 そう言うと九十九は笑ってみせた。

「まさかとは思うが、二階堂家についても知っているのか」

「知っているわよ。わたしは物知りだから。ヒナコちゃんにも会ったことがあるわ」

「どういうことだ」

「そのままのことよ」

「しかし、生者以外はこの異界には入れないと……」

 その二階堂の疑問に、九十九は何も答えず笑みを浮かべるだけだった。

「わたしの作り出した異界は、不老不死の異界なのよ。それだけは教えてあげるわ。それが答えみたいなものね」

 九十九の発言に二階堂は思わず九十九の顔をじっと見つめてしまった。もし、九十九の発言が本当であれば、九十九もヒナコ同様に平安の頃から生きているということになる。そうなると、九十九はこの異界の中で千数百年の時を過ごしていたということなのだろうか。

「それで、俺たちをここに呼んだ理由は何なんだ」

「閑話休題ってやつね。わたしがあなたたちを呼んだのは、鬼門晴明を救ってほしいからよ」

「はあ?」

「何を言っているんだ。鬼門晴明は、あんたの団体じゃないか」

「まあ、作ったのはわたしだけれども……。いまはわたしの名前を利用して、鬼門晴明をいいように使っているやつがいるのよ」

「別に運用者がいるっていうことか」

「まあそんなところね」

「何者なんだ、その運用者は」

「ジョージ」

「日本人じゃないのか?」

「いや、日本人よ。乗司という法名を持った生臭坊主。いまは鬼門晴明の代表って名乗っているわ」

「その男が鬼門晴明を乗っ取っていいように使っているというわけか」

「まあそんなところね。あなたたちにも迷惑をかけているようだし」

 ここのところ鬼門晴明が絡んだ依頼といったものが妙に多かった。それは九十九が仕掛けたことではなく、乗司という現在の鬼門晴明の代表を務める人物が鬼門晴明を暴走させた結果だということのようだ。

「それで、おれたちはどうすればいいんだ、九十九」

「乗司をここに連れてきてほしいの」

「あんたのところの信徒じゃダメなのか」

「乗司を連れてこれるほどの人間はいないわ。それに誰が味方で、誰が敵なのかはわたしにもわからない。乗司は巧妙に信徒たちを支配しているのよ」

「なるほど、手強い相手ってわけか」

 その二階堂の言葉に九十九は一瞬黙り、何か考えるような顔をしてから再び口を開く。

「あいつは、呪いを喰らっているバケモノだから……」

「おいおい、なんかとんでもないやつをおれたちに連れてこさせようとしていないか」

「お礼はちゃんとするから。ね、お願い」

 そう言って九十九はにっこりと微笑むと、二階堂と桂川の目の前で手をパンッと合わせた。

 乾いた音が響き渡り、その風圧を感じた。

 次の瞬間、目の前には青い空が広がっていた。

 そこはマンションの屋上であり、目の前にあるのは貯水槽だった。

「どうする、二階堂。やるのか」

「やるしかないだろ。俺たち以外にやれる人間はいないんだ」

「そうだな」

 ふたりはお互いのやる気を確認して、屋上から戻るための扉へと向かうのだった。



 九十九 ~了~


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