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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
九十九

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九十九(2)

 部屋に戻り、シャワーを浴び、その後は気を失ったかのように眠っていた。

 二階堂が目を覚ましたのは午前八時過ぎのことであり、それは枕元に置かれたスマートフォンが着信を告げていたからだった。

「はい――」

 半分寝ぼけた状態で電話に出ると、スマホの向こう側から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「寝てたか?」

「ああ、寝てたよ。昨日は夜勤だったんだ」

「そうか、悪かったな。いま、喫茶店にいるからモーニングを食べに来いよ」

「朝食の誘いか、恵比寿」

「まさか。仕事だよ、二階堂」

「わかった。すぐに行く」

 そう言って電話を切ると、二階堂はまた目を閉じた。

 しかし、誰かが二階堂の体を揺すってくる。

 目を開けると、そこにはヒナコの顔があった。

「先生、寝ちゃダメ。お仕事でしょ」

「ああ、そうだったな。ありがとう、ヒナコ」

 二階堂は起き上がると洗面所へと向かった。

 顔を洗い、ヒゲを剃っているとヒナコが鏡越しに覗き込んでくる。

「どうかしたのか、ヒナコ」

「モーニングってどんなメニューがあるの、先生」

「え? ああ……。ヒナコは食いしん坊だな」

「違うよ。ちょっと気になっただけだから」

 頬をほんのりと赤らめながらヒナコは言い訳じみたことを言う。

「気になるよな。俺もお腹が空いてきたところだ。モーニングっていうのは、トーストとコーヒーのセットとか、パンケーキとか色々あるよ」

「パンケーキ?」

 ヒナコは目を輝かせながら言う。

「ああ。楽しみにだな、ヒナコ」

「うん」

 出かける支度を終えると、二階堂とヒナコは恵比寿の待つ喫茶店へと向かうことにした。

 雨はすでに止んでいた。明け方の雨が嘘であったかのように、ギラギラと照りつける太陽の姿がある。

 喫茶店までは歩いて十分ほどの距離だった。あまり朝に出歩くことは無いので、どこか景色も新鮮なものに思える。通勤途中のサラリーマンやゴミ出しをしている主婦など、普段ではあまり見ることのない人たちの姿を見ながら二階堂とヒナコは、いつもの道を歩いた。

 喫茶店に入ると、いつもと同じ席に恵比寿の姿があった。恵比寿はトーストとハムエッグのモーニングセットでアイスコーヒーを飲んでいる。

「悪いな、朝から」

 二階堂の姿に気づいた恵比寿はそう言うと、テーブルの端にあったメニューを取って、二階堂とヒナコの前に置いた。

 ゆで卵とトースト、それとホットコーヒー。二階堂はモーニングセットを注文したが、ヒナコはまだ迷っているらしくメニューとにらめっこをしている。

 手早く朝食を済ませた二階堂は紙ナプキンで口元を拭き、隣でバタートーストに齧りついているヒナコをちらりと見たあとで口を開いた。

「それで、どんな仕事なんだ、恵比寿」

「とある怪異について調べてほしいそうだ」

「怪異?」

「ああ、とあるマンションで怪異が連続しているらしく、それを調べてほしいそうだ」

「マンション全体でなのか」

「そのようだ」

「なんだか今回の依頼はえらく曖昧じゃないか、恵比寿」

「さすがは探偵、勘が鋭いな。実は今回の依頼には仲介者がいる」

「仲介者?」

「依頼を受けて、自分のところで捌ききれなくなったからこっちに回してきたってわけだ」

「その仲介者っていうのは、誰なんだ」

「……鬼門晴明だ」

 またその名前か。二階堂はため息をついた。

「なあ、その鬼門晴明っていうやつは何者なんだ、恵比寿」

「なんだよ、前にお前からその名前を教えられたような気がするんだが」

「俺の知っていることはネットで書き込みをしているとか、複数人いるとか、そんなところだ」

「お前の同業者だよ、鬼門晴明は。奴らは自分たちを祓師はらいし集団とか呼んでいるけどな」

「個人名じゃないんだな」

「本当に何も知らないんだな、探偵さんよ。鬼門晴明は集団の名前だ。どちらかといえば、宗教団体に近いような存在かもしれない。まあ、そうは言ってもおれも詳しい話は知らないんだが……」

「そうか……。それで、その鬼門晴明がこっちに仕事をまわしてきたってわけか」

「まあ、そんなところだ。どうする、二階堂。お前がやりたくないというのであれば、断ることもできるぞ」

 恵比寿は二階堂の顔をじっと見つめながら言った。

 少し考えるような素振りを見せたあと、二階堂は口を開く。

「やるよ」

 その二階堂の言葉を聞いた恵比寿は少し安心したような表情を浮かべてから、仕事の説明に入った。


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