千年の呪いを継ぎし者(9)
しばらくの間、ぼーっとしながら二階堂は喫茶店の席に座っていた。
テレビでは、九回の裏ツーアウトの状態で満塁を迎えたピッチャーと、打席に立つバッターの顔が交互に映し出されている。
カウンターの内側からは、注文を受けたマスターがアイスコーヒーを作るために冷凍庫から氷を出している音が聞こえてくる。
外ではセミが鳴いている。不思議なものでセミは暑すぎると鳴かなかったりする。
「ちょっと、勘弁してよね……」
喫茶店の入口が開くと同時に入ってきた女が呟いた。
それは黒いノースリーブのワンピースを着た内山だった。内山は一時間ほど前に喫茶店を出ていったはずだった。
「どうかしたのか?」
「はあ? どうかしたのか、じゃないわよ。あんたがきちんと心を決めないから、私が怒られたじゃないの」
「え?」
「魔女の分際で、我に無断で呪いを解こうなんぞ、一万年早いわ」
別の声が背後から聞こえ、二階堂は慌てて後ろを振り返る。
すると、そこには平安装束に身を包んだヒナコが立っていた。
「ごめんね、探偵さん。私には無理だから。あんたの呪いなんて解くのは」
「え?」
何がなんだかよくわかっていない二階堂は内山に聞き返したが、内山は顔の前で両手を合わせて拝むようなポーズを取ると、逃げるようにして喫茶店から出ていってしまった。
カキーン。
テレビからボールを打つ音と大歓声があがった。
二階堂は視線をテレビ画面の方へと向けようとしたが、その視界にヒナコの顔が入ってきた。
ヒナコの姿は平安装束ではなく、いつもの十五、六歳くらいの少女のような姿に戻っていた。
「どうしたんだい、ヒナコ」
二階堂は優しい口調でヒナコに問いかける。
「ううん。何でもない」
ヒナコは首を横に振ると、にっこりと笑ってみせた。
テレビ画面から、試合終了を告げるサイレンの音が聞こえて来て、泣いている高校球児の姿が映し出されていた。
二階堂には、それがどちらの高校の球児なのか、そして最後はホームランだったのか、アウトだったのかもわからなかった。
千年の呪いを継ぎし者 ~了~




