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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
千年の呪いを継ぎし者

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千年の呪いを継ぎし者(7)

 その晩は新月だった。月の姿はどこにもない。

 燭台を手にした顕房は、いつものように御堂へと向かっていた。

 月の明かりがない夜はかなり暗く感じられ、燭台の明かりだけが頼りだった。

 御堂の扉を開けて中に入ると、燭台を机の上に置いた。

 御堂の中には仏像がある。かつては金色に輝いていたという話だったが、いまではその輝きは失われていた。

「ヒナコ」

 顕房はいつものように声をかけた。御堂の奥にある小さな部屋にヒナコはいつもいた。

 しかし、ヒナコは声をかけても顕房の前に姿を見せることはなかった。

 どうかしたのだろうか。

 不安になった顕房は、その部屋を覗き込む。

 部屋の中は無人だった。ヒナコはどこへ行ってしまったのだろうか。

 室内を見回した顕房は、部屋の隅に何かが置かれていることに気づいた。燭台の明かりを近づけて、その物をよく見る。

 部屋の床に置かれていたもの、それは鬼の面であった。

 しかも、鬼の面は真ん中から綺麗に二つに割れている。

 ヒナコがやったのだろうか。

 そんなことを思いながら顕房は割れた鬼の面を手に取った。

 鬼の面に手が触れた時、得体のしれない感覚に顕房は襲われ、身震いをした。

 この感覚は、一体何なのだろうか。

 顕房が鬼の面を桐箱の中に戻していると、背後に気配があった。

「おい」

 声をかけられて振り返ると、そこには髪の長い女がいた。歳の頃は二十歳くらいだろうか。平安装束である十二単を身にまとった女は憎しみに満ちたような顔でこちらをじっと見つめている。

「どなたかな」

のことを忘れたというのか、顕房」

 女はそう言うと、持っていた扇子で口元を覆うようにした。

 見覚えはなかった。しかし、どこか懐かしいような感覚もある。

「我じゃ、ヒナコじゃ」

「なんと……ヒナコなのか」

「驚いたであろう。我の本当の姿じゃ」

「ヒナコ、お前は一体何者なのだ」

「言ったであろう。我は二階堂の家の呪いじゃ」

「それは聞いているが……」

「元々は鬼の呪いであった」

「あの、面の鬼か」

「そうじゃ」

「そういえば、あの面が割れていたが」

「ああ。あれか。あれは我がやったこと」

「どういうことなんだ」

「鬼を喰らってやったのよ。あの馬鹿な鬼は我のことを喰らうことを企んでおった。何百年もの間、力を封印されていたことを忘れてな。だから、逆に鬼を喰らってやったのよ」

 ヒナコはそう言って笑う。

「鬼を喰らったら、そのような姿になったというのか、ヒナコ」

「そうではない。言ったであろう。これは我の元の姿じゃ」

「だが、鬼のような姿にも見えるぞ、ヒナコ」

 顕房はヒナコの額から生えてきている二本の角を指して言った。ヒナコの目は黄色く濁り、口からは牙のようなものが出ている。ヒナコは鬼を喰らったといったが、逆に鬼に喰われてしまったのではないかという不安も顕房の中にはあった。

「確かに、鬼を喰らうということは鬼を取り込むということじゃ。だから、我の中に鬼が入ったとも言えるかもしれぬ。だが、安心しろ、顕房。二階堂家に対する鬼の呪いは無くなったのだ」

「そうなのか」

「そうじゃ。我が呪いを喰らってやったからな」

「では、残る呪いはヒナコだけか」

「そういうことになるな……」

「我の呪いは嫌か、顕房」

「いや……お前の呪いは受け入れよう」

「我は二階堂家の永遠の呪いとなるのじゃぞ」

「構わぬ」

「そうか……ありがとう、顕房」

 ヒナコがそう言うと、ひと筋の涙がヒナコの目からこぼれ落ちた。

 それと同時にヒナコの姿は十五、六歳の少女へと戻った。


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