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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
旧校舎の魔女

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旧校舎の魔女(10)

「ふん、結局はの力を頼るのではないか」

 どこからかヒナコの声が聞こえた。

 目を開けようとしたが、その力すらも残されてはいなかった。

「二階堂先生、大丈夫ですか」

 今度は瀧本の声だ。声は聞こえるのだが、身体を動かすことは出来なかった。


「愚かな悪魔よ。我の前に跪くがよい」

 ヒナコはそう言うと、たたんだ扇子をバフォメットの頭へと打ち下ろす。

 バフォメットはその扇子を角で弾くとヒナコのことを掴もうと腕を伸ばした。

 しかし、バフォメットはヒナコのことを掴むことは出来なかった。

 地響きがした。

 それは、バフォメットの腕が斬り落とされた音だった。

「ふん。我の言葉に素直に従っておれば良いものを」

 ヒナコはそう言って扇子を閉じた。

 バフォメットの腕を斬り落としたのは、ヒナコの開いた扇子だった。ヒナコの開いた扇子はまるで刃物のように鋭く、掴みかかろうとしたバフォメットの腕を斬り落としていたのだ。

「愚かよのう、愚か。自分の力量もわからぬか」

 三白眼で睨みつけるようにしながら、ヒナコはバフォメットへと近づいていく。

 バフォメットの表情には怯えが走っていた。

「おい、魔女よ。さっさと、封印してしまえ。でなければ、こいつを殺すぞ」

 ヒナコが魔女に向かって言う。

 その隙をついて、バフォメットは残っている方の腕でヒナコに掴みかかろうとしたが、それよりも先にヒナコの持った扇子が動いていた。

 一閃。まさにその言葉がふさわしかった。

 ヒナコが縦に振った扇子は、バフォメットの山羊頭からふくよかな乳房、そして反り立った男性器までを一刀両断していた。

「愚か者め。せっかく封印させてもらえるチャンスをふいにしおって」

 ため息混じりにヒナコは言うと、扇子を畳んだ。

 真っ二つになったバフォメットはその場に崩れ落ちると、まるで泥のように溶けていった。

「おい、魔女。後始末をしておくのじゃぞ」

「わ、わかりました」

 魔女は顔を強張らせながら言うと、倒れている二階堂のところへと向かうヒナコのことを見送った。


 二階堂が目を開けると、そこには心配そうに覗き込む三人の姿があった。

 ひとりはヒナコであり、ひとりは瀧本で、もうひとりは内山である。

 三人の女性は、二階堂が目を開けたことに喜び、手を取り合っていた。

「ここは?」

「保健室です。二階堂さんが気を失われてしまったので」

「俺が?」

 起き上がろうとすると、頭に鈍痛があった。

「先生、まだ休んでいなきゃダメだよ」

「あ、ああ。それよりも、バフォメットは?」

「すべて、終わりましたよ。ね、瀧本先生」

 魔女……いや、司書の内山が瀧本に言う。

 瀧本は申し訳無さそうな顔をしながら、二階堂のことを見ていた。

「ええ。すべては終わりました。学園長への報告書はわたしの方で作成しますので、二階堂せん……いえ、二階堂さんは、もうお帰りになっても大丈夫です」

 何があったのかはよくわからないが、すべては解決したようだ。


 数日後、学園長から二階堂の元へと連絡が入った。

 旧校舎は無事に取り壊しをすることができるようになったという。

 また司書であった内山が退職することになったとのことだった。

「魔女は自分の仕事が終わったから、学園にいる必要がなくなったんだな」

「ねえ、先生。わたしも魔女になれるかな」

「え? ヒナコは魔女になんてなる必要ないだろ。いまのままで十分だよ」

「えー、でも、ヒナコも魔法が使えるようになりたい」

 そんな会話をしていると、玄関のチャイムが鳴った。

 出てみると宅配便だった。

 小さな箱の小包には学園の住所が書かれていた。

「なんだろうな」

 二階堂が封を開けてみると、小包の中にはメガネと一通の手紙が入っていた。

 手紙には達筆な文字で、様々な近況が書かれている。

『お借りしていたメガネをお返しします。瀧本』

 最後にはそう一文が付け加えられていた。



 旧校舎の魔女 ~了~


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