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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
旧校舎の魔女

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旧校舎の魔女(9)

 バフォメットは悪魔の象徴的存在でもあった。

 特徴的なのは黒山羊の頭であるが、バフォメットは両性具有であり、剥き出しとなった豊満な胸と、反り立った男性器には蛇が絡みついており、さらには背中に真っ黒な翼が生えているという特徴がある。

 目の前にいるバフォメットもまったく同じ姿をしており、その独特な目つきで二階堂のことを見下ろしていた。

 なぜ、このような場所にバフォメットが存在していたのかはわからない。ただわかるのは、こいつがとんでもないバケモノであるということだけだった。

 もし、旧校舎の取り壊し作業が何事もなく進められていたとしたら、とんでもないことになっていただろう。下手したら数人の死者が出たかもしれない。バフォメットはそれだけ危険な存在なのだ。

 いつからバフォメットの存在に気づいていたかはわからないが、魔女はこの学園に仮の姿を持って潜伏し、ずっとバフォメットの封印が解けないようにしてきていたのだった。

 その話がどこでねじ曲がってしまったのか、魔女の方が悪い存在として認識されるようになり、二階堂のもとへと依頼が来ることとなったのだ。

「地は眠らず、土は息づく。根を張る木々はその血脈、湧き出る水はその鼓動。大地を統べる神々よ、揺るぎなき座より目覚め給え。我らを抱き、我らを支え、この祈りを受け容れ給え――」

 呪言。それは陰陽師が唱える祝詞とは似て異なるものであった。

 二階堂は呪言を唱え、大地の神々に語りかける。

 バフォメットはその山羊のような足を動かして、二階堂のことを蹴りつけようとしてきたが、大地から生えてきたツタ植物によって、その足元は絡め取られ、足を動かすことができなくなっていた。

「おい、まだなのか」

「もうちょっとだからがんばってよ、探偵さん」

 魔女は何やら魔法陣のようなものを作り出し、土で作った人形のようなものに命を吹き込む儀式を行っていた。

 そんな会話をしている間にも、バフォメットは足に絡まったツタを取り除き、二階堂へと迫ってくる。

 二階堂は再び印を組み直すと真言を唱えようとしたが、それよりも先にバフォメットの強烈な一撃を喰らってしまった。

 たぶん、蹴りだったと思う。足の先に着いた蹄で蹴られた二階堂は後方に弾き飛ばされた。

 倒れ込んだ二階堂に、足の無い上半身だけの兵隊たちが群がってこようとする。

 腕や足を掴まれ、中には歯を立ててこようとするモノまでもいる。こいつらは、生者の肉を喰らおうという考えのようだ。

 二階堂は手足を振り回して暴れるようにしながら、兵隊たちの手から逃れると、立ち上がって再び印を組んだ。印を組むと、兵隊たちは近寄ってこれなくなる。それだけ二階堂の印の力が強いのだ。

「くそ、まだなのか」

 苦し紛れに二階堂は独り言をつぶやく。二階堂の印の力では、兵隊たちを寄せ付けないことだけで精一杯であり、バフォメットの相手をするには少々力が足りなかった。

 バフォメットは、その豊満な乳房を揺らしながら、こちらへと歩み寄ってくる。それと同時に蛇が巻き付いている反り立った男性器にも目がいった。

 両性具有のバケモノ。どうして、こんなバケモノを魔女たちは崇拝するのだろうか。

 そんなことを考えていると、バフォメットの背後に巨大な岩の塊のようなものが見えた。

 ゴーレム。その存在については、何かの本で読んだことがあった。魂が込められた泥人形のはずだ。

 そのゴーレムはバフォメットに後ろから襲いかかると、強烈なパンチを喰らわせていた。

「待たせたわね、探偵さん」

 どうやらゴーレムは魔女が召喚したもののようだ。西洋人形にあれだけの呪力を与えられるのだから、泥人形をゴーレムにすることも魔女には可能なことなのだろう。

「どうやって、バフォメットを封印するんだ」

「あの魔法陣を壊せば、封印できるはずよ」

 魔女の指した方向には、小さな祭壇のようなものがあり、そこの地面には魔方陣が描かれていた。

 もしかしたら、このバフォメットは誰かが召喚したものなのかもしれない。

「わかった。俺が行こう」

 二階堂はそう言うと、ゴーレムと取っ組み合いをしているバフォメットの脇をすり抜けて祭壇へと向かおうとした。

 しかし、次の瞬間、足元が掬われた。

 出足を払われる形となった二階堂の体は宙を舞い、そのまま地面へと叩きつけられる。

 何事かと足元を見ると、そこにはバフォメットの尖った尻尾があった。

「くそっ!」

 印を組み二階堂は足に絡みついた尻尾を祓おうとするが、印を組ませないと言わんばかりに尻尾に強い力が込められて、再び二階堂の体は宙を舞った。

 二階堂の体は何度も、何度も、地面へと叩きつけられた。

 このままでは、意識を失ってしまう。二階堂は薄れゆく意識の中で自分を保とうと、印を組み続けていた。

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