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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
旧校舎の魔女

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旧校舎の魔女(8)

 旧校舎に向かうと、辺りの黒い霧は濃くなっていっていた。

 瀧本のような何も知らない人間を巻き込むべきでないと二階堂は思っていたが、瀧本は二階堂の気持ちとは裏腹に、着いてきてしまった。もう、ここまで来てしまったのだから、仕方がない。そう思い、瀧本にも腹をくくってもらうことにした。

 司書の内山先生こと、学園の魔女の気配は旧校舎にあった。その気配を辿れるように、二階堂は先ほど魔女へと投げ返した貸出カードに自分の念を仕込んでおいたのだ。

 旧校舎の中に入ると、ますます黒い霧が濃くなり、どこか平衡感覚が失われたような感じになっていた。天井からは得体のしれない液体のようなものが流れ出ており、それが壁を伝って下に流れ落ちてきている。

 おそらく旧校舎は異界に飲み込まれていた。

 時おり起こる地響きと、先ほどからずっと聞こえてきている妙なうめき声。おそらく、うめき声の正体がこの異界を生み出したモノなのかもしれない。

「え……なにこれ……」

 しばらく旧校舎の中を歩き、一階の突き当りにある階段のところまで来たところで、瀧本が声を上げた。

 本来であれば、そこには二階へとあがるための階段が存在しているはずだった。

 しかし、いま目の前にあるのは、二階へ行くための階段ではなく、真っ暗な地下へと続く階段がぽっかりと口を開けていた。

「ここを降りる以外に道はなさそうだな」

 そこはまるで怪物が開けた大きな口のように思えた。

 またうめき声のような声が聞こえてきた。その声は、この先にある地下から聞こえてくるようだった。

「さあ、行こう」

 二階堂はそう言うと、瀧本の手を取った。一瞬、瀧本が顔を赤らめたようにも思えたが、辺りが暗かったため、二階堂には何も見えてはいなかった。

 地下に降りると何とも言えない臭いがたちこめており、思わず二階堂は顔をしかめた。

 うめき声は断続的に聞こえてきている。

 ズズ……ズズズ……ズズズズ……。

 どこからか何かが引きずられるような音がした。

 黒い霧の中から下半身の無い兵隊の格好をした男が這い出てくる。

 旧校舎の噂。その中に下半身のない兵隊の話はあっただろうか。

「ひぃっ!」

 瀧本が悲鳴をあげて尻もちをつく。顔からは血の気が引き、腰が抜けてしまったかのように這って逃げようとしていた。やはり、瀧本を連れてきたのは間違いだったかもしれない。

「瀧本先生、メガネちょうだい」

 ヒナコはそう言うと、瀧本から二階堂のメガネを取り上げる。

「え……」

 メガネを外してしまえば普通の人間であれば、そういったモノたちは視えなくなる。おそらく、瀧本も同じだったのだろう。

「あれ? ヒナコちゃん? ヒナコちゃん、どこ?」

 それは同時にヒナコの姿も視えなくなることだった。

「大丈夫、わたしは近くにいるよ、先生」

 優しい口調でヒナコは瀧本に告げたが、その声が瀧本に聞こえていたかどうかはわからなかった。

 二階堂は指で印を組むと、真言を唱えて、下半身のない兵隊の霊を浄化させる。

 その間も、地響きと唸り声は続いていた。

 やはり、この先にとんでもないモノがいるようだ。

「ヒナコ、ここで瀧本先生を見ていてくれないか」

「いいけれど、先生はどうするの」

「俺はこの先にいると思われる魔女に会ってくる」

「先生……この先にいるのは魔女だけじゃないよ。気をつけてね」

 ヒナコの言葉を背に受けながら、二階堂はひとり先へと歩みを進めた。

 瘴気の中から魑魅魍魎たちが溢れ出してこようとしていた。二階堂はそんなモノたちに構っている暇はないと足早に先へと進んでいく。

 そして、道の突き当たりにある大きな空間へと辿り着いた。

 そこには、あの図書室の司書である内山こと、赤髪で赤い瞳の魔女の姿があった。

「やっと追いついた」

「来てしまったのね……」

「ああ、来たさ。あんた一人じゃ、手に負えないだろう」

 魔女が対峙していたモノ。それは山羊頭のバケモノであった。

 バフォメット。そう呼ばれる悪魔がいる。両性具有であり、頭は黒山羊、体は人間。黒い翼を持っており、魔女たちの崇拝の対象でもある。

 しかし、バフォメットは暴走状態にあるようだった。何かが原因でバフォメットを怒らせてしまったのかもしれない。

「なあ、西洋人形の呪い、あれはあんたの仕業だろう」

「どこかで呪いが消えたと思っていたら、あなただったの」

「俺にはあれがメッセージに思えたんだがね。私を探してっていう」

「そんなわけないでしょ。だって、あれは呪いなのだから」

「まあ、いい。それよりも、どうしてあんたはこの崇拝するバケモノと喧嘩したんだ」

 二階堂は目の前にいるバフォメットを指していう。先ほどからの唸り声、それはバフォメットが発しているものだった。

「これは私が呼び出したものではないわ。私がここに来るよりも前から、ここにいたの。暴走状態で危険すぎる存在だから封印しようと思っていたんだけれど、旧校舎の取り壊しの話が出てきてしまってね。封印する前に校舎を取り壊せば大きな厄災が起きてしまうわ」

「なるほどね。それであんたは毎晩のようにバフォメットの力を抑える努力をしていたってわけか。どうやら、あんたは『良い魔女』だったようだな」

「そんなことはないわよ。呪いも使うし。今回はたまたま」

「まあ、いい。それで、封印できるのか?」

「あなたが隙を作ってくれれば、なんとかできると思うわ」

「わかった」

 二階堂はそう言うと指で印を組み、口の中で真言を唱えだした。


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