旧校舎の魔女(7)
夜の旧校舎というのは、どこか不気味だった。
その女子生徒は、足を乗せるだけでギシギシと鳴る床の上を年の離れた幼い妹の手を引いて歩いていた。
「おねえちゃん、ねむいよ……」
「もうちょっとだから、がまんして」
時刻は深夜二時になろうかという時間だった。ふたりの両親は夕食を食べた後、ふたりが寝室へとむかったことを確認し、どこかへと出かけていった。それはよくあることだった。両親は朝になるまで帰ってこない。そのことも女子生徒は知っていた。
旧校舎にはある噂があった。その噂というのは魔女にまつわるものであり、旧校舎の視聴覚室で魔女に生贄を捧げれば、なんでも願いを叶えてくれるということだった。
女子生徒は自分の願いを叶えるために、旧校舎へとやってきた。本当はひとりで家を抜け出す予定だったのだが、家を抜け出そうとしたところで妹が目を覚ましてしまったのだ。妹とは年の差が七つも開いており、まだ幼い妹をひとり家に残してくるというのは忍びないと思い、一緒に連れてきてしまった。
もし、旧校舎の魔女が悪い魔女だったら……。今更ながら、幼い妹を一緒に連れてきてしまったことを女子生徒は後悔していた。
父と母は再婚だった。幼い妹は父と母が再婚した際にできた妹だった。そのため、女子生徒と幼い妹の間に血の繋がりはない。でも、女子生徒にとって幼い妹が自分の妹であることには変わりなかった。女子生徒は妹を可愛がり、いつも一緒に遊んでいた。
視聴覚室につくと、窓が開いているのかカーテンが風に揺れていた。
そのカーテンの動きに目を奪われていると、いつの間にか目の前に人が立っていることに女子生徒は気づいた。
「あら、こんな時間にお客様かしら」
「ま……魔女?」
そこにいたのは赤い髪と赤い瞳が印象的な黒いドレスを着た女だった。年齢はわからなかった。若いようにも見えるし、歳を取っているようにも見える。なんだか不思議な感じがした。
「魔女。私をそう呼ぶ人たちもいるわね。あなたは、私に何を求めに来たのかしら」
「わたしは……」
そこまで言って、女子生徒は幼い妹の手をぎゅっと握りしめた。
「おねえちゃん、おてて、いたいよ」
「まずはあなたの名前を教えてもらおうかしら。願いを叶えるには名前が必要なの」
「……です」
「え、声が小さくて聞こえないわ」
「……本です」
「ん?」
「はっきり言ってもらえるかしら」
「瀧本……さおりです」
女子生徒はまだ言い慣れていない、最近変わったばかりの名前を口にした。
「そう、さおりさん。それで、あなたの願いは何かしら」
「わたしは……」




