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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
旧校舎の魔女

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旧校舎の魔女(5)

 四階にある生徒指導室に瀧本の姿はあった。瀧本は自分の机でパソコンと向かい合っている状態であり、集中モードに入っているのか、二階堂たちが生徒指導室に入っても気づいた様子はなかった。

「瀧本先生、ちょっとお話を伺いたいのですが、よろしいですか」

 名前を呼ばれた瀧本はハッとした顔をして、かけていたメガネを外してから、こちらへと歩いてきた。どうやら瀧本はパソコンをする時だけメガネをかけるようだ。もしかしたら、ブルーライトカットメガネというやつなのかもしれない。

「どうかしましたか」

「旧校舎について、ちょっと教えていただきたくて」

「なんでしょうか」

 少しだけ滝本の表情が動いた。それはどこか面倒くさいといった感じの表情かおだった。

「実は先ほど、旧校舎に入ったところ、足跡を見つけました」

「足跡?」

「ええ、上履きの足跡が三つ。おそらく、女子生徒のものと思われる足跡です」

「じゃあ、誰かが旧校舎に侵入したっていうこと」

 少しだけ、瀧本の口調が強くなる。

「そういうことになりますね。足跡はまだ新しいものでした」

「わかりました。明日の全校朝礼で報告して、生徒たちに厳重注意を促します」

 それだけ言うと、もう話は終わりといった感じで瀧本はパソコンに向き直ろうとした。

「それともう一つ」

「もう一つ?」

 まだあるのか。滝本の眉間に寄せられた皺はそれを物語っていた。

 しかし、ここからが本題だ。二階堂は咳払いをしてから、再び口を開いた。

「もう一つ、足跡がありました」

「そう。三人でも四人でも一緒よ。全校朝礼で厳重注意をします」

「いえ。もう一つの足跡は生徒のものではありませんでした。ハイヒールですよ。瀧本先生、あなたが履いているような」

「そう。わたしは教師だから旧校舎に入ることが禁じられているわけではないけれど。たまに見回りで入ることもあるし。それにわたし以外にもハイヒールくらい履いている教師はいるわよ。もう、いいかしら。わたしも忙しいのよ」

 興味を失った。そんな口調で瀧本は言うと、パソコンの前に戻ろうとした。

 しかし、二階堂はそこで話を終わらせるつもりはなかった。

「瀧本先生は、旧校舎の魔女の話を知っていますか?」

「ええ、聞いたことはあるわよ。生徒たちが噂しているやつでしょ」

「どう思いますか」

「どう思いますかって言われても。ただの噂話でしょ。あなたは、その噂話を絶つために学園長に雇われた探偵なんでしょ、二階堂先生。だったら、仕事をきちんとしてもらわないと困るわ」

 瀧本は再びメガネをかけると、パソコンの画面へと視線を戻す。

「そうですね。だから、瀧本先生に尋ねているんですよ」

「全然何の話をしているのかがわからないわ」

「あの日、旧校舎で瀧本先生は何を見たのですか」

「だから何の話をしているの。わからないって」

 再びメガネを外して二階堂の方に顔を向けた瀧本は、苛立ったような口調で言う。

「魔女の儀式ですよ。あなたは、その儀式に立ち会っていた。違いますか?」

 確信を持った口調で二階堂は言った。そう、これには確信があったのだ。三日前の放課後、旧校舎で瀧本は女子生徒三名と一緒にある儀式を行っていた。それは二階堂がその前日に仕掛けたカメラによって捉えられていた事実だった。

「ただの余興よ。彼女たちがどうしても魔女の噂の真相を知りたいっていうから。それで彼女たちが満足して、もう旧校舎への立ち入りをやめてくれるというなら安いものよ」

「そうでしたか。だから、自分が魔女だと正体を明かして」

「何を言っているの」

「あんたなんだろ、噂の旧校舎の魔女っていうのは」

 二階堂は口調を変えて言う。

 その言葉に瀧本はくだらないといった表情で二階堂のことを見る。

「あなたも学園長みたいに噂に翻弄されるってわけなのね、二階堂先生。それとも噂が本当の話だったって方が、あなたには好都合だったりするのかしら」

「いや、関係ない。ただ、俺は目の前にある真実を知ったというだけだよ」

「何が真実よ。生徒たちのくだらない噂話に踊らされているだけなのに。笑わせないで」

「火のない所に煙は立たぬ。昔の人はよく言ったものだよ。俺の目を欺けると思っていたのかい」

 二階堂のその言葉に瀧本はため息をついた。

「訳のわからないことばかり言って、わたしの仕事の邪魔をしないでもらえる? わたしは生徒たちに道を踏み外してほしくないのよ。だから、多少の生徒たちの戯言にも付き合うし、それがおかしな方向に向かっているようだったら軌道修正をしてあげないといけない。それが教師というもの、教師は聖職者なのよ」

「え……本当に魔女じゃないのか?」

「だから言っているじゃない。わたしは生徒指導主任として、彼女たちに注意をしたって」

「じゃあ、図書室で『魔女狩りの歴史』を借りた理由は?」

「はあ? なにそれ。そんな本は借りていないけれど」

「いや、でも、ここにあなたの名前が……」

 二階堂はポケットから『魔女狩りの歴史』の巻末にあった貸出カードを取り出すと、瀧本に渡した。

 確かにそこには瀧本の名前がフルネームで書かれている。

「わたしの字じゃないわ」

「え……」

「言っておきますが、わたしは書道をやっています。ですので、このような癖字は書きません」

 瀧本の言う通り、貸出カードに書かれた文字は丸っぽい文字であった。

 机の上に置かれた瀧本のノートへ目を移すと、そこには書道をやっている人らしい綺麗な文字が書き並べられていた。

「じゃあ、これは誰が書いたんだ」

「知りません。誰かがわたしの名前を語って書いたんじゃないですか」

「って、ことは旧校舎の魔女は別にいるのか?」

「何を言っているんですか、二階堂先生」

 呆れた口調で瀧本は言ったが、二階堂は何かを考えるかのように天井を睨みつけていた。

 そして、何か思い浮かんだかのように二階堂は口を開く。

「あの、女子生徒三人はいつもどこにいますか?」

「彼女たちは、よく図書室にいるわよ。彼女たちは文学少女だから」

「……まずい」

 二階堂は自分のミスに気づいて生徒指導室から飛び出した。こんな簡単なトラップに引っかかってミスリードをさせられてしまうとは。

「ちょっと、二階堂先生」

 図書室へと向かう二階堂の後ろを瀧本のハイヒールの音が追いかけてきていた。


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