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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
旧校舎の魔女

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旧校舎の魔女(3)

 魔女伝説。それは西洋、特に中世ヨーロッパを中心に伝わってきた伝説である。

 魔女は不思議な妖術などを使い、超自然的な力で人々を恐怖に陥れてきたとされている。

 しかし、魔女はヨーロッパだけの文化とは限らない。東洋、特に日本においても魔女と似た人々は存在していた。その者たちは魔女という呼び名ではなく、巫女と呼ばれ神に仕える存在として崇められたりしていた。西洋と東洋の違い。それは人々の恐怖の対象であったかどうかということかもしれない。

 人々に忌み嫌われた存在であった魔女は、その噂だけで人々を恐怖に陥らせ、魔女狩りという独自の文化まで生み出し、多くの犠牲者を生んだ。

 そんな魔女狩りが盛んな中世ヨーロッパであっても、本物の魔女を捕まえたという記録は残されてはいない。魔女狩りは、ただ疑わしき女性を狩るという人間狩りだったのだ。

 図書室の隅で『魔女狩りの歴史』という本を手に取って読んでいた二階堂は、巻末にあった図書カードに目を通してからその本を閉じると元あった場所へと戻した。ヒナコは机のところで何やら難しそうな本を静かに読んでいる。

 S学園の図書室は広大だった。中高一貫校であることから、大勢の生徒が利用する場所として作られたのだろう。しかし、いまはこの広大な図書室にいるのは、二階堂とヒナコ、そして司書担当の教員だけだった。

「あの、そろそろ図書室を閉めなければならない時間なのですが……」

 伏し目がちなその女性司書は二階堂とヒナコに向かってそう告げると、腕時計へと目を落とした。

 時刻は午後五時になろうとしている。学生たちも下校をしなければならない時間だった。

「失礼、もう出ます。お疲れ様でした」

 二階堂はそう言って女性司書に頭を下げると、図書室を後にした。

 廊下に出ると西日が差し込んできていた。その光景を見ると、なんだか自分が学生だった頃のことを思い出し、少しノスタルジーな気分になる。

「先生、この後はどうするの?」

 ヒナコが廊下で立ち止まった二階堂に問いかけてくる。

「そうだな……。旧校舎へ行ってみようか」

 二階堂はそう言って、中庭を挟んで存在する旧校舎の方へと視線を送った。

 一階と二階の窓には板が貼り付けられており、三階だけはガラス窓が見えるようになっている。ただ、三階の全教室はカーテンが閉じられており、中を見ることはできないようになっていた。

 ふと、二階堂の視界の中に何か動くものが映ったような気がして、二階堂は目をそちらへと向けた。

 ちょうど旧校舎の三階の辺りだった。

 しかし、それは一瞬のことであり、そちらに視線を送っても何も見ることはできなかった。

 旧校舎に行くには、一旦現校舎を出て中庭にある渡り廊下を通る必要があった。

 渡り廊下の先にある旧校舎の玄関には南京錠でロックがされていたが、その鍵を二階堂は瀧本から受け取っていた。この鍵が何本存在するのかはわからないが、瀧本の口調からすると全教員が持っているというわけではなさそうだった。

 南京錠を手に取り、鍵穴へ鍵を差し込もうとした時、二階堂は何か違和感を覚えた。

 この違和感はどこから来るのだろうか。考えてみたが、それはわからなかった。

 鍵を開け、扉を開けると旧校舎の重苦しい空気が二階堂たちを出迎えた。

 二階堂は持っていた懐中電灯で足元を照らすと、旧校舎の中へと一歩踏み込んだ。

 旧校舎内は、カビとホコリの混ざりあったような古い臭いがこもっていた。板張りの床は足を一歩踏み出すたびにギシギシと不愉快な音をあげている。

 廊下の窓すべてにベニヤ板が貼り付けられているため校舎内は薄暗く、それが不気味さに拍車をかけていた。当たり前のことだが、旧校舎内に生徒たちの姿は見当たらなかった。基本的に生徒たちの旧校舎への立ち入りは禁止されているのだ。

 一階の廊下を突き当りまで歩き、その突き当たりにある階段を上がっていくと、さらにカビ臭さが強くなる。

 足元を懐中電灯で照らしていると、薄っすらと積もったホコリの中に、いくつかの足跡があることに二階堂は気付いた。

「これは侵入者がいるな」

 二階堂は呟くようにいった。先ほど入口で鍵を開けようとした時にあった違和感。それは鍵があまりにすんなり開いたことだったということに二階堂は気がついた。普通、古く普段から使われていない鍵であれば錆びついていたりして、簡単には開かなかったりするものだ。それが、まるで油でも差してあるかのように南京錠の鍵はすんなりと開いた。これは普段から旧校舎に出入りしている人間がいるという証拠でもあった。

「先生、これって上履きの跡だよ」

「そうだな、ヒナコ。よく気づいたな」

「だって、わたしは探偵の助手だから」

 褒められたことがよほど嬉しかったのか、ヒナコはニコニコと満面の笑みを浮かべて言う。

 上履きの跡はサイズが違うものが三足。足の大きさからして、おそらく女生徒だということが推測できる。

 別に旧校舎に侵入者がいたところで二階堂には関係の無いことだった。二階堂への依頼は、妙な噂の真相を暴くというものであり、旧校舎に侵入した生徒たちが何をやっていようと関係なかった。しかし、もうひとつ足跡を見つけてしまったことで、二階堂は疑念を抱くこととなってしまった。

「先生、変な足跡もあるよ」

「……そうだな」

 その変な足跡というのは、ハイヒールのものと思われる足跡だった。ハイヒールといえば、滝本が履いていたという印象が強く残っている。

 もし、この足跡が瀧本だとして、なぜ瀧本が旧校舎へ足を踏み入れる必要があったのかということが、二階堂には気になった。旧校舎へ侵入した生徒たちへの指導だろうか。それとも別の理由があって自ら旧校舎を訪ねたのだろうか。どちらにせよ、瀧本に直接聞いたほうが早いだろう。そう考えた二階堂は、旧校舎での探索を切り上げて、瀧本のいる現校舎の生徒指導室へと向かうことにした。


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