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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
旧校舎の魔女

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旧校舎の魔女(2)

 以前より、私立S学園には妙な噂が存在していた。

 それは旧校舎にまつわるものであり、その噂は代々生徒たちの間で語り継がれてきており、いまでも旧校舎の噂は絶えること無く囁かれている。

 そもそも旧校舎は校舎の建て替えが終われば取り壊される予定だった。旧校舎の跡地は新たにグランドとして使用されるはずだったのだ。

 しかし、旧校舎の取り壊しは無期限延期となってしまい、いまではS学園に新旧二校舎が存在している状態となっていた。旧校舎の建て替え理由は、校舎の老朽化によるものだった。そのため、現在では旧校舎の一部教室以外は立入禁止となっており、生徒たちの入室を禁止していた。

 こういったこともあり、旧校舎の妙な噂が生徒たちの間で立ちはじめたのである。

 最初は、幽霊騒ぎだった。

 旧校舎の取り壊しが中止になったのは、解体作業員が見たとされる少女の幽霊のためであり、その少女はかつて旧校舎で自殺した女子生徒の幽霊だという、根も葉もない噂が生徒たちの間で流れていた。しかし、その少女の幽霊というものを見た作業員というのは存在せず、旧校舎で自殺した女子生徒がいるという事実も存在しなかった。

 また別の噂では、この私立S学園の旧校舎が戦時中に病棟として使われていたということで、包帯でぐるぐる巻きになった兵隊さんの幽霊が出るというものであった。こちらに関しても、調べてみるとS学園の旧校舎が病棟として使われていたという事実は存在していないことから、誰かが作り出した噂話であるということがわかった。

 このようにS学園の旧校舎に関する奇妙な噂は次々に出てきては消えるということを繰り返しており、その影響が学園への入学者減に繋がるのではないかと考えた学園側は探偵である二階堂を雇い、噂の真相を調べさせようしたのだった。

「こちらで調べた限りは、全部根も葉もない噂話に過ぎませんね」

 学園長室の応接用ソファーに腰を下ろした二階堂は、この一週間で調べた情報をまとめた調査報告書をテーブルの上に差し出した。

「では、なぜ噂話が絶えないのかね」

 学園長だという口ひげの男はでっぷりとした腹をさすりながら二階堂に問いかける。

「なんででしょうね」

「なんででしょうねって、それを調べるのがキミの仕事だろうが。何のために高い金を出してキミを雇ったと思っているんだ」

「では、すべてを話してください。私にまだ話していないことがありますよね」

 二階堂は学園長の目を覗き込むようにして言った。

 欲深い目。権力に溺れた男の目だった。おそらく、学園でこの男は王様のように振る舞っているのだろう。誰も意見することができないことをいいことに、この学園長室でふんぞり返っている。

「隠し事なんか何も無い」

 学園長はきっぱりと言いきった。

「わかりました。では、私に権限をください」

「権限?」

「はい。この学園のすべてにアクセスすることができる権限です」

「なんだね、それは」

「旧校舎への立ち入りと、全教員、全生徒へ聞き込みを許可してください」

「なんだと」

「それが出来ないのであれば、私の仕事はここまでです。ちゃんと噂話に関する情報収集は行いましたから」

 二階堂はそう言うと、ソファーから腰を上げようとする。

「待て、ちょっと待て。わかった、わかったよ。その権限とやらを与えよう。詳しい話は……そうだな、生活指導主任の瀧本くんに聞くといい」

「わかりました。ありがとうございます」

「あ、そうだ。周りの人間に話を聞くことは許可するが、それを口外することは許可せんからな」

「わかっていますよ。守秘義務ですよね」

 二階堂はそう言うと学園長室を後にした。

 面倒な依頼だった。依頼を持ってきたのは恵比寿であり、恵比寿も知り合いから学園長を紹介されて二階堂へと仕事を持ってきたということだった。

 傲慢な学園長と学園に流れる奇妙な噂話。もし、マスコミが嗅ぎつければ、大々的に報じることは間違いない。学園長としてはそうなる前に手を打っておきたいというところなのだろう。だから、二階堂を安くはない金額で雇った。そういうことなのだ。

 この一週間で二階堂は、学園にまつわる噂話をまとめた。ただ、それは学園に関係する第三者から聞いた話であり、実際の教員や生徒たちから聞いた話ではなかった。そのため、信憑性というものがかなり薄くなっていた可能性もある。

 探偵としての仕事を一週間続けてきたおかげで、週五でおこなっているアルバイトはすべて休んでいた。バイト先に休みの連絡を入れると「二階堂くんがいないと困るよ」などと言ってきた店長もいたが、本業はあくまで探偵の方なのだ。

 さて、許可も得られたことだし、旧校舎とやらの調査をはじめるとしようか。二階堂がそう意気込んでいると、背後から呼び止められた。

「あの、二階堂さ……先生」

 振り返ると、そこには黒のスーツを着た真面目そうな女性が立っていた。

「瀧本です。学園長から話を聞きました」

「ああ、瀧本先生。よろしくお願いします」

「本日より、二階堂さんは当学園の非常勤講師ということになります。ですので、学園内では先生という肩書きで呼ばさせていただきます」

「わかりました」

「なにか不明点などがありましたら、わたしに聞いて下さい」

 それだけ言うと瀧本は頭を下げて、カツカツとヒールの音を廊下に響かせながら去っていった。

 黒髪を引っ詰めて後ろで団子状にした髪型で生真面目そうな顔をした、絵に描いたような女教師。それが瀧本の第一印象だった。


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