西洋人形は夜に嗤う(7)
どこかで夏祭りでもやっているのか、浴衣を着た男女の姿を多く見かけた。
そんな光景を珍しく思うのか、ヒナコは浴衣姿の人を見かけるとじっと見つめて、その姿を目で追いかけたりしている。
「二階堂くん、おまたせ」
待ち合わせ場所に姿を現したのは、浴衣姿の桂川ハルヒであった。普段から着物姿であるハルヒだったが、浴衣姿を見るというのはどこか新鮮だった。
「どこかでお祭りでもやっているんですか?」
「あら、知らなかったの」
「え、どこですか」
「うちよ」
そう言ってハルヒは小高い山の上にある神社を指差す。
どうやら、きょうは桂川家が宮司を務める神社で祭りが行われているようだ。
「これ、ヒナコちゃんの」
「え?」
ヒナコは驚いた顔をしてハルヒから差し出された紙袋を覗き込む。
そこにはハルヒが着ている浴衣と色違いの浴衣が入っていた。
「社務所に行って着替えましょう」
「……先生、いい?」
ヒナコは二階堂の顔をじっと見つめながら、問いかけてくる。
今回の件の立役者はヒナコに違いなかった。仕方がない。二階堂はヒナコに頷いて見せる。
三人で石段を登り、神社の境内までたどり着くと、そこには屋台などが出ており、多くの人で賑わっていた。
「ちょっと着替えてくるわね」
ハルヒはそう言うと、ヒナコの手を引っ張って社務所の方へと消えていった。
闇夜の中に浮かび上がる色とりどりの提灯。中には電球が入っているのだが、その優しい光がどこか落ち着きを与えてくれる。
数週間前、この場所で西洋人形との死闘が繰り広げられていたなどということは、誰も想像しないだろう。
「あれ、二階堂じゃないか」
そう声を掛けられて振り返ると、そこには桂川ハルヒの弟である桂川ユウキの姿があった。桂川は相変わらずの革ジャンに革パンといった姿であり、サングラスこそはしていなかったものの、鼻につけたチェーンピアスも健在であった。
「なんか、姉貴が世話になったそうだな」
「別に大したことはしていないさ」
「そうなのか。でも、命の恩人だとかなんとか言ってたぜ」
「まあ、気にしないことだ。俺は依頼を請け負っただけだからな」
そんな会話をしていると、ハルヒとヒナコが社務所から出てきた。
ヒナコは少し照れくさそうにハルヒの後ろからチョコチョコと着いてきている。
「お、ヒナコちゃん。浴衣、似合っているね」
桂川がそう声を掛けたが、ヒナコは無表情のままだった。
「先生、どう?」
「似合っているよ、ヒナコ」
「えへへへへ」
ヒナコは嬉しそうに笑ってみせると、よほど浴衣を着させてもらったのが嬉しかったのか、その場でくるりと一回転してしてみせた。
「そういえば、アレはどうなったの?」
ハルヒが二階堂に問いかけてくる。
アレというのは、西洋人形のことだった。
「ああ、二度と戻ってこれない場所に封印しておいたよ」
「二度と戻ってこれない場所?」
「まあ、そういう場所があるんだよ、二階堂家には」
「なにそれ」
「簡単に言ってしまえば、冥界とつながる井戸みたいなものかな」
「小野篁?」
「遠からず、近からずってところかな」
二階堂はそう言うと夜空を見上げた。
あの西洋人形は封印を施し、ある場所に葬っていた。その場所は二階堂家の当主だけが知る場所であり、何人たりとも近づいてはならないとされている場所だった。あの場所であれば、魔女の呪いである西洋人形といえども戻ってくることはできないだろう。
「まあ、いいか。……そろそろ時間ね」
「え? 何が?」
ハルヒの言葉に二階堂が答えると同時に提灯の明かりが一斉に消え、辺りが闇に包まれた。
轟音と言ってもいいような音が響き渡る。
夜空にパッと花開いた光。そう、打ち上げ花火だった。
「すごいね。綺麗だね、先生」
二階堂の隣りにいたヒナコは目をキラキラと輝かせながら、夜空に打ち上がる花火の姿を見つめていた。
~西洋人形は夜に嗤う~ 了




