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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
西洋人形は夜に嗤う

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西洋人形は夜に嗤う(5)

 西洋人形はにやりと笑って、洋扇でひと扇ぎしてみせた。

 すると黒い瘴気のようなものが立ち込め、その中から黒い洋犬が数頭姿を現す。

「日本の犬は嫌いだけれど、ワタシに忠実な番犬たちは好きよ」

 瘴気の中から現れた洋犬たちは、唸り声をあげながらハルヒのことを威嚇する。

 まったく面倒な人形だこと。ハルヒは心の中で呟きながら、着物の懐から数枚の札を取り出した。

「天を裂く翼、曇を払え。日輪の眼、よろずの影を射抜け。荒風の爪、禍を裂け。翔けよ、天翔の鷹、我が命に応えよ――」

 ハルヒが祝詞を唱え、札に息を吹きかけると、キラリと空からひと筋の光が現れた。

 それは巨大な翼を持った鷹の式神だった。

 その鷹が、西洋人形が出現させた凶悪な顔をした犬たちに上空から狙いを定める。さらには、再び召喚した式神犬の氷衛も素早い動きで洋犬たちへと襲いかかっていく。

 西洋人形の召喚した魔犬とハルヒの式神たちは乱戦となっていたが、その隙を突いて西洋人形がハルヒへと襲いかかってきた。

 身長の伸びた西洋人形の背丈はハルヒとあまり変わらないほどになっていた。洋扇を西洋人形が振ると、そこからコウモリが現れ、次々とハルヒに襲いかかる。

 ハルヒは着物の袖でそのコウモリたちを振り払うと、西洋人形の腕を掴んだ。

 突然、腕を掴まれた西洋人形は驚いて、腕を引っ込めようとする。

 すると、西洋人形の身体が宙を舞った。そして、そのまま地面へと叩きつけられる。

 それは合気道の技だった。ハルヒは幼い頃より、陰陽道と一緒に合気道も習っていたのだ。

 何が起きたのかわからない。そんな顔で西洋人形は自分のことを見下ろすハルヒのことを見つめていた。

「甘いわね、お人形さん」

 ハルヒはそう言うと、西洋人形の額に向けて指で五芒星を描く。

 五芒星。それは陰陽五行道における、木・火・土・金・水の五行の象徴であり、それぞれの要素を相互作用させるものである。陰陽道ではこの陰陽五行の五芒星を用いて、陰陽の術を施すのに使用していた。

「ちょ……やめ……」

 西洋人形は抵抗しようとしたが、ハルヒが西洋人形の身体をしっかりと固定していたため、動くことはできなかった。

 ハルヒが封印の祝詞を唱え、西洋人形の額に五芒星が浮かび上がると、西洋人形はピタリと動かなくなった。

 すると周りに漂っていた瘴気も消え、先ほどまでいた洋犬たちの姿も消えていた。

「ちょっと危なかったわね」

 そう言ってハルヒは立ち上がると西洋人形の身体に何枚かの札を貼り付けた。

 不思議なことに西洋人形の大きさはそのままであり、元の小さな人形の大きさに戻ることはなかった。

 少し首を傾げながらも、まだ邪に満ちた気が人形の中に残っているからかもしれないとハルヒは思い直し、周りに結界を張り、西洋人形の力を封じるための儀をはじめる準備に取り掛かった。

 封印の儀の支度を整えたハルヒは、着物から陰陽師の正装である水干に着替え、結界の中へと入る。

 すると、おかしなことが起きた。

 なぜか足元が泥のようにゆるくなっているのだ。ここは部屋の中であり、下は畳のはずだった。

 しまった。

 そうハルヒが思った時にはすでに遅く、底なし沼に嵌まってしまったかのように、足首のあたりまで床の中へと入っていってしまっていた。

「オホホホホホホ、甘いわね、甘すぎるわよ、ハルヒちゃん」

 西洋人形の笑い声が聞こえてくる。

 あたりは黒い瘴気で満ち溢れており、封印のための祭壇は姿を消していた。

 西洋人形に対してはしっかりと札を貼り、動きを封じたはずだった。どこかに抜けがあったとも思えなかった。

「そんなことだから、男にも逃げられちゃうのよ」

「な、なにを」

「あら、ワタシが何も知らないとでも思って?」

 西洋人形の言葉にハルヒはギクリとさせられた。どういうことなのだろうか、西洋人形はこちらの情報を掴んでいる。

「やっぱり、詰めが甘いわよね。桂川春日(ハルヒ)って女は」

「ど、どこでわたしの名前を」

 陰陽道において、自分の本当の名前を知られるというのは致命的なことだった。本当の名前を知られると相手から呪いに掛けられてしまう恐れがあるからだ。これは平安の頃に最盛期を迎えた陰陽道の教えであり、決して本当の名前を相手に知られてはならないというのが、陰陽道における考え方だった。そのため、平安時代の貴人たちは本当の名前ではなく役職と下の名前を組み合わせたもので呼ばれていた。代表的なものでいえば清少納言などが当てはまる。清少納言の清は姓である清原から来ており、少納言というのは当時の役職などが当てはまるのだ。このように、陰陽道の教えが浸透していた平安時代では、本当の名前を人に教えることはなかったのだった。

「あら、そこら中にあるじゃない。あなたの名前は。ワタシが気づかないとでも思って?」

 西洋人形はそう言ったが、陰陽道で使用しているこの場所には、ハルヒの本名が書き記されたものは何も存在していなかった。桂川家は陰陽師の家系であり、陰陽道の教えを忠実に今でも守っているのである。

「それにあなたの過去も色々と知っているわよ。たとえば、許嫁だった男を死なせてしまった話とか」

「やめてっ!」

 ハルヒは叫ぶように言った。

 なぜ知られてしまったのか、なぜこの西洋人形はわたしの過去のことまで知っているのか。ハルヒは自分のことを知られたという恐怖に飲み込まれてしまった。


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