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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
西洋人形は夜に嗤う

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西洋人形は夜に嗤う(3)

 むんとした空気が立ち込めていていたが、それを気にする様子もなく、クーラーの効いた店内を出たヒナコは雨上がりの空を見上げていた。

「どうかしたのか、ヒナコ」

 アスファルトに染み込んだ雨が蒸発していく熱気を感じながら、二階堂も喫茶店の外に出てヒナコに問いかける。

 まとわりつくような湿気を含んだ空気が肌にまとわりついてくる。この不快感をヒナコはなんとも思わないのだろうか。そんなことを思いながら二階堂は空を見上げるヒナコの横顔を見つめていた。

 綺麗に揃えられた前髪と肩のあたりまで伸びた黒髪。色白でまるで日本人形のような顔立ちをしたヒナコは、ぱっと見は十五、六歳くらいの少女に見える。ただ、時おり二十歳を超えた大人の女性にも見えることもあった。実際の彼女の年齢はわからない。そもそも呪いに年齢があるのかどうかも、二階堂にはわからなかった。

 ヒナコの正体。それは二階堂家に代々伝わる呪いだった。呪いがなぜ人の形となっているのかはわからない。わかっていることは、ヒナコが平安時代頃から二階堂家に伝わる呪いとなったということだけだ。ヒナコの呪いは、二階堂家の当主だけに伝わるものだった。そのため、当主以外はヒナコの存在は知らない。代々二階堂家の当主だけがヒナコの存在を知らされ、そして受け継いできたのだ。

 実際、二階堂もヒナコの存在を知ったのは二階堂家の当主となってからだった。先々代の当主である父から先代の当主である兄へとヒナコの呪いは引き継がれ、そして現当主となった二階堂へと引き継がれたのである。ヒナコの存在については、兄から直接伝えられたというわけではなかった。兄は何も語らずに死んでいったのだ。ただ二階堂はヒナコという呪いの存在を受け入れ、二階堂家の当主となったというわけだ。

「あ、あった。先生、ほら」

「ん? どうした、ヒナコ」」

「ほら、あそこ。あそこに虹が見えるよ」

 雨上がりの空。そこでヒナコはずっと虹を探していたのだ。

 虹を見つけたヒナコの顔はそれこそ子どものような笑顔だった。

 嬉しそうに虹を見上げているヒナコのことを見つめながら、二階堂は微笑みながら喫茶店の中へと戻った。

 ホットコーヒーのおかわりを注文して、しばらくスマホを見ていると、店の入口に人の気配があった。顔を上げると、そこには桂川ハルヒの姿があった。桂川ハルヒは着物姿であり、この暑さの中であるにもかかわらず、汗一つかいていなかった。

「久しぶりね、二階堂くん」

 そんな挨拶をしたあと、ハルヒはダージリンティーを注文した。

 いつの間にかヒナコは戻ってきており、二階堂の隣でアイスココアを飲んでいる。

「電話で言ったことだけど」

「ああ。仕事の話ですね。どんな厄介事を持ってきてくれたんですか」

 二階堂は嫌味を込めて言ってやった。この姉弟はいつだって厄介事をもって現れる。

「ふふ。厄介事ということは間違いないわよ」

 ハルヒはそう言うと、一枚の写真をテーブルの上に置いた。

 それは西洋人形だった。ガラスケースに入っているのだが、どこか生きているような妙な感覚を写真から感じさせられた。

「何なんだ、この人形は」

「呪いの人形。そう呼べばいいかしら。わたしもとある人から預かったのよ」

「だったら、あんたが祓うべきことだ。俺の仕事じゃない」

「まあ、そのつもりだったんだけど。ちょっと探偵さんの手を借りなきゃならなくなっちゃってね」

「どういうことだ」

「まあ、恥を忍んで言うわ。逃げられたのよ」

「人形に?」

「ええ。彼女……あ、人形のことね。彼女はかなり強い呪力を持っていたの。わたしはそれを見誤った」

「それで逃げられたってわけか」

「まあ、そんなところ。その人形を探偵である、二階堂くんに見つけ出してほしいの」

「なるほど、そこで探偵である俺の仕事が出てくるというわけか」

 探偵と呼ばれた二階堂は満更でもない表情を浮かべて言った。

「そうよ。二階堂くんの探偵としての腕を見込んで依頼をしているの」

「仕方ない。本来ならば、飛び込みの依頼は請け負わないことにしているんだが、そこまで言われては断るわけにもいかないな」

「じゃあ、お願い。彼女を捜し出してくれれば、あとはわたしの方で処理するわ」

 ハルヒはそう言ってちらりとヒナコのことを見た。

 ヒナコはその視線に気づいた様子もなく、喫茶店のメニューを眺めていた。


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