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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
西洋人形は夜に嗤う

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西洋人形は夜に嗤う(2)

 雨が降ってきた。急な雨であり、傘を持っていなかった二階堂は、慌てて喫茶店へと逃げ込んだ。

 始業前のオフィスを清掃するアルバイトの帰り道だった。誰もいない早朝のオフィスでゴミ箱からゴミを集めて、床に掃除機をかける。掃除機は業務用の特殊なやつであり、これの扱いに慣れるまでが大変だった。

 二階堂の本業は探偵である。しかし、二階堂は特殊な依頼を請け負う探偵であり、頻繁に依頼は来なかった。そのため、二階堂は週五でアルバイトを行っている。これも食べていくため、仕方ないことだった。

 喫茶店に入ると、マスターがタオルを貸してくれた。びしょびしょというわけではなかったが、髪は少し濡れている状態だったため、タオルで髪を拭いて乾かした。

 喫茶店の奥にあるいつもの席に向かい、ホットコーヒーを注文した。

「先生、雨すごいね」

 窓の外で滝のように流れる雨を見ながらヒナコが言う。

 ヒナコは雨に濡れた様子もなく、外の景色を見つめていた。

 一瞬、辺りが光りに包まれた。それと同時に雷鳴が鳴り響く。それは遠くの空で鳴っているという感じではなく、すぐ近くで落雷があったような轟音だった。

 客の中には悲鳴をあげる女性などもいたが、ヒナコは雷鳴などは気にしないようで、ココアを飲んでいた。

 停電になってしまったのか、店内の明かりが突然消えた。昼間ということもあって、それほど気になることはなかったが、店内で流れていた音楽が止まってしまったことで、外の雨の音が気になるようになった。

 雨はしばらく止みそうにはなかった。

 二階堂は雨のせいで視界が悪くなった外の景色を見つめていたが、ヒナコはメニューに目を落とし、何を食べようかと考えているようだった。

 しばらくして、電気が回復した。店内に明かりが灯り、音楽が店内に戻ってきたことで、なんとなく安心した気持ちになった。

 ヒナコはちょっと早い昼食として、ホットケーキを注文していた。この店のホットケーキは、あつあつのホットケーキの上に四角いバターとたっぷりのハチミツが掛かっており、その匂いは食欲を嗅いだだけでも空腹感を覚えてしまうほどに食欲がそそられる。


 電話が鳴った。それはスマートフォンではなく、店のレジ脇に置かれた公衆電話の音だった。

 マスターが受話器を上げて、何やら話している。

 この喫茶店にはところどころ、レトロな物があり、それがマスターのこだわりでもあった。

「二階堂くん、ご指名だよ」

「え?」

 困惑しながらも二階堂はレジ脇に向かい、マスターから受話器を受け取る。

「もしもし――」

「二階堂くん?」

「そうだけれど、そちらは?」

「わたしよ、わたし」

「すいません、どちら様でしょうか」

「声ではわからないってわけね。しょうがないか。桂川ハルヒよ」

「え……失礼しました。まさか、店に電話してくるとは思わなかったんで」

「だって、わたしは二階堂くんの電話番号を知らないから」

「そうですよね」

「今度、電話番号を教えてくれる」

 どこか甘えた声だな。もしかして、厄介事を持ち込もうとしているんじゃないか。二階堂は受話口越しにハルヒの声を聞きながらそんなことを思っていた。

「それは構いませんけれど……。それで何か用ですか」

「仕事の依頼よ。ちゃんと代金も支払うわ」

「ありがとうございます。それで、依頼の内容というのは?」

「電話で伝えるわけにはいかないわ。でも、どうしようかしら……」

「この喫茶店に顔を出してもらえれば」

「わかったわ。雨が止んだら、そっちに向かう。それでいいかしら」

「ええ。お待ちしています」

 そう言って、二階堂は受話器を電話機の上に戻した。

 桂川ハルヒからの依頼。どうにも嫌な予感しかしなかった。彼女からはじめて依頼をされたのは、弟である桂川ユウキを助けてほしいというものだった。あの時は、結局のところ二階堂は何も手を出すことなく、桂川ユウキは救い出された。今回はどんな依頼だというのだろうか。

 ハルヒには聞きたいこともたくさんあった。彼女の口にした兄との関係。彼女は兄の許婚だったと言っている。しかし、二階堂はそんな話は聞いたことがなかった。


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