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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
西洋人形は夜に嗤う

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西洋人形は夜に嗤う(1)

 これまたとんでもないものを持ち込んでくれたものだ。

 桂川ハルヒは、目の前のテーブルの上に置かれたガラスケースを見つめながらため息をついていた。

 祖父の代から付き合いのある代議士の紹介ということで、無下に断ることはできなかったのだが、これは断るべき案件だったのではないかとハルヒは後悔していた。

 ガラスケースの中には一体の西洋人形が入っている。これを持ってきた人間によれば、夜な夜な勝手にこの西洋人形が動き出すのだという。人形には魂が宿りやすいということは確かだ。しかし、ただ魂が宿ったくらいでは人形が勝手に動き出すといったことはありえないのだ。人形が勝手に動き出す。それは何かしらの呪いのようなものが関係しているに違いなかった。

 さて、どうしたものか。ハルヒはガラスケースの中にいる人形を見つめた。

 金髪で巻き髪、まつげが長く、目の青い人形だった。金色のドレスを着ており、特に汚れなどもない。これが呪いの人形でなければ、高値をつけた買う人もいるのではないかと思えるような代物だ。

 ただ、いまはガラスケースにちょっとした結界を施して、人形の力を封印しているようだ。このガラスケースに結界を施したという霊能者はすでに亡くなっているそうで、年々その結界が弱まってきているのか、人形が動き出すようになってしまったのだという。

 桂川家は代々陰陽師の家系である。先祖をたどっていけば平安時代まで遡ることができ、その時代の桂川家の当主はあの安倍晴明に近しい陰陽師であったという記録も残されているほどだった。そんな桂川家であるからこそ、厄介な問題を持ち込まれることも多かった。

 いつもであれば、厄介事を進んで引き受ける弟のユウキがいるのだが、現在は別の仕事に取り掛かっているため仕事を振るわけにはいかなかった。

 カタン――。

 物音がしたため、ハルヒは視線をそちらへと向けた。

 しかし、そこには何もなかった。

 気のせいか。ハルヒは視線を再びガラスケースへと戻す。

 するとガラスケースの中にいた人形が微笑みながらこちらを見ていた。先ほどまで人形は無表情だったはずである。

 普通の人間であれば、恐怖のため悲鳴のひとつでもあげてしまうかもしれない。しかし、ハルヒは違っていた。幼い頃から幽霊やあやかしと呼ばれるような存在たちの相手をしてきた陰陽師なのだ。このくらいのことは、よくあること。そんな感じで、人形のことを見ていた。

「ねえ、ワタシが怖くないの?」

 ガラスケースの中から人形が話しかけてくる。

 ハルヒはそれも当たり前のことであるかのように、人形の言葉に答えた。

「別に怖くないわよ」

「なんで?」

「なんでって言われてもねえ」

「これでも怖くない?」

 人形は口を大きく開けて笑ってみせた。そこにはギザギザの歯が生えており、その笑顔はまるで悪魔のような形相になっていた。

「まあ、怖い……とでも言うかと思った?」

「なによ、つまらない女ね」

「それはお互いさまでしょ」

 ハルヒはそう言うとテーブルの上に置かれたガラスケースをちらりと見た。

 先ほど人形が口を大きく開けた際に、ガラスケースに小さなヒビが入った。ガラスケースはそれなりに頑丈なものであるし、何よりも霊能者による結界が張られているはずだった。

「ねえ、ワタシをどうするつもりなの?」

「どうしようかしら。このまま封印してしまうというのもありだけれど、あなたを人形から解き放って解呪げじゅしてしまうというのも手ね」

「そんなこと、できるの」

 驚いたような顔をして人形が言う。

 見た目は可愛らしい顔をした西洋人形であるため、どこかハルヒは人形遊びでもしているような気持ちになっていた。

「もちろん。でも、そのためにはあなたがどんな呪いであるかを知る必要があるわ」

「違うわ」

「何が、違うの?」

「お前の力では、ワタシの呪いを解くなんてことは不可能だよっ!」

 突然人形の声が男の低く野太いものに変わると、人形の周りを覆っていたガラスケースが砕け散った。

 飛んで来るガラスの破片を防ごうとハルヒは着物の袖を振る。

 ハルヒが人形から目を逸らしたのは、その一瞬だけだった。

 次にハルヒがガラスケースへと目を向けた時、そこには元ガラスケースだった粉々に砕け散ったガラス片があるだけで、人形の姿は消えていた。

「お転婆な子ね」

 ハルヒはそう呟いてから「誰が掃除すると思っているのかしら」と言って、部屋の隅に置かれていたほうきを手に取ると畳の上に散らばったガラス片を片付け始めた。

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