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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
終電を逃し夜に、蛇は右手を這いのぼる

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42/77

終電を逃し夜に、蛇は右手を這いのぼる(4)

 それは一ヶ月前の新聞に載っていた。

 二階堂は新聞を購読していないため、図書館へ出向いてバックナンバーを確認したのだ。

『マンションの最上階から女性転落。事故と事件の両面で警察が捜査』

 そんな見出しで小さな記事として扱われていたのが、彼女の死に関する情報だった。

 しかし、その翌日の新聞を見ても続報は書かれてはおらず、その先の日付を見ても、やはり彼女の記事はなかった。

「自殺よ」

 彼女はぼそりと呟くように言う。

「あたしは耐えられなくなったの。だから死を選んだ。それで全部終わるはずだったのよ……」

 どこか悲しげな声だった。

 図書館の学習スペースで二階堂、ヒナコ、恵比寿、そして彼女の四人は過去の新聞紙面をめくっていた。

 ただ、周りの人間には二階堂と恵比寿の姿しか見えていないため、ふたりの男が平日の真昼間から過去の紙面をめくって何やら話しているようにしか見えないはずだ。

「指輪に関しては、何も書かれていないな」

 恵比寿が青白い顔をしながら言う。恵比寿の右手の薬指にはめられた指輪から伸びている蛇の模様は、恵比寿の二の腕の辺りまで伸びてきていた。この呪いは、呪いの主である彼女にもどうすることもできないそうだ。この呪いを解く方法、それは指輪を見つけるしかなかった。

「どうすりゃいいんだよ……」

 頭を抱える恵比寿をよそに、二階堂は新聞記事を見ながら何かをメモしており、その隣ではヒナコが料理のレシピ本をパラパラとめくっていた。

「ねえ、先生」

「なんだい、ヒナコ」

「この料理っておいしいのかな」

 ヒナコが見ていたのは肉じゃがのページだった。ヒナコが肉じゃがを食べたことがないというのは、意外なことだったが、考えてみれば家で食べるのは大抵コンビニの弁当かカップラーメンであるし、外食をするといってもいつもの喫茶店くらいしかヒナコを連れて行くことはなかった。先代や先々代といった二階堂家の人間たちがヒナコとどのように付き合っていたのかはわからない。ヒナコの存在を知るのは、二階堂家の当主となった時なのだ。そのため、当主となるまではヒナコの存在を知ることはない。ヒナコは二階堂家の当主に憑いた呪いなのだ。

「今度、作ってみるか」

「うん」

 ヒナコは目を輝かせながら頷いた。

「ねえ、目の前でイチャつくのやめてもらえます? ってか、あんた呪いでしょ」

「そうだけど……。別にわたしは先生とイチャついたりはしていないよ……」

 珍しくヒナコが反論をする。

 ヒナコに反論された彼女は、黙り込む。きっとこちらを睨むような目で見ていただろう。

「ねえ先生。イチャつくって何?」

 小声でヒナコが聞いてくる。

「いいんだ、ヒナコ。それは知らなくてもいい言葉だ」

 二階堂はそう言うと、メモ書きを進めた。

 そのメモ帳を彼女が覗き込んでくる。

「あ……。あたしの名前」

「そうだ、キミのことを調べているんだ」

 メモには彼女の名前である木下真夏(まなつ)という文字が何度も登場していた。

 過去の新聞記事、インターネットのニュースサイトなど、様々なところから彼女の名前をキーに情報を集めてみたが、これといって自殺の記事以外にヒットすることはなかった。

「それで、何がわかったんだ、二階堂」

 真夏の隣に座っていた恵比寿も彼女と同じように二階堂のメモを覗き込んでくる。

「いや、何もわからない……。仕方ない、警察に聞いてみるか」

 二階堂はメモ帳をパタンと閉じると呟いた。

「え?」

「事件を担当した刑事に直接聞くのが一番早いだろ。調べても、木下真夏のことは何もわからないからな」

「さすがは探偵だ」

 恵比寿はそう言ってにやりと笑ってみせた。


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