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メガネの探偵、二階堂  作者: 大隅スミヲ
死を呼ぶ魔の踏切

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死を呼ぶ魔の踏切(5)

 それはどこにでもある踏切だった。警報機の音が鳴り響き、特急列車が通過していく。

 近くにある駅はターミナル駅ということもあって、朝や夕方のラッシュ時間帯にはこの踏切が全然開くことがないことから『開かずの踏切』などという呼び方をされていた。

 ただ、開かずの踏切にはもう一つの名前があった。魔の踏切。誰が呼び始めたのかは知らないが、この踏切のもう一つの呼び方だった。すでに今年に入って四人がこの踏切で死んでいる。自殺の名所。そう呼ばれたりもしていた。

 雨が降っていた。大勢の人が傘をさし踏切を越えていく。


 カンカンカンカン。


 特急列車が近づいてくるのか、踏切が警報音を鳴らしながら遮断機を下ろしていく。人々は足早に踏切を渡り、線路内から去っていく。

「おい、あんた。なにやってんだ。早く渡れ」

 背広を着たサラリーマンが後ろを振り返って声を掛けた。

「おい、何やってんだよ。早くしないと……」

 地響きが線路を通して足に伝わってくる。特急列車が甲高い警笛を鳴らしながら近づいてくる。


 カンカンカンカン。


 踏切の遮断機は完全に降り、線路からは誰もいなくなる。

 警笛が聞こえる。

 眩しい光。

 動こうとしても足は動かない。

 足元を見ると、そこには血まみれの女がいて、足首をしっかりと押さえていた。

 にやりと女が笑う。黄ばんだ歯が剥き出しになる。


「火威」

 桂川は冷静に自分の式神である犬神の火威に命じる。

 火威がひと吠えすると、女の体は炎に包まれ、焼き尽くされる。

 特急列車が桂川に突っ込んでくる。もう、間に合わない。

 次の瞬間、火威が桂川に体当たりする。

 桂川の体は飛ばされ、すぐ目の前を特急列車が通過していく。

 これで八度目だ。

 あの時から、桂川はずっと同じことを繰り返していた。

 毎回、踏切に来るシチュエーションは違っている。

 しかし、踏切の中で動けなくなり、あの女に足首を掴まれるのは同じだ。毎回、火威によって桂川は助けられる。これに何の意味があるのか。桂川は少し考えてみたが、全然わからなかった。

 どうすれば、ここから脱出することができるのだろうか。あの女を祓えばいいのだろうか。それとも別のモノを祓えばいいのだろうか。別のモノ。それは何か。この踏切に寄生している魔のモノ。それはどこにいるのか。検討もつかなかった。


 そもそも、どうしてこの場所に入ってしまったのか。それもよく覚えてはいない。たしか、誰かを待っていたはずだ。その誰かというのも、桂川には誰なのかも思い出せないでいた。

「待ち人来たらず、か」

 そう呟きながら、桂川はポケットに入っているタバコへと手を伸ばす。別に愛煙家というわけではなかった。ただ、魔除けにタバコの煙が使えることを知っているというだけだ。いまは持て余した時間を潰すためにタバコを吸う。

「まいったな……」

 再び桂川は呟いた。ポケットに入っていたタバコのパッケージは空だった。

 ここに迷い込んでから何本タバコを吸ったのかまでは覚えてはいなかった。ただ、同じ毎日の繰り返しをしている気がするので、一日一本はタバコを吸っているのだろう。

 同じことの繰り返し。それが毎日続く。いや、毎日ではないかもしれない。勝手に一日が経過したのだと思い込んでいたが、実は数分ごとに同じことが繰り返されているのかもしれない。時間の感覚というものはなかった。気がつくと、同じ場面に遭遇して、同じことを繰り返しているのだ。ループしている世界。これはしゅなのだろうか。こちらの心が折れるまで繰り返される呪い。もしそうなのであれば、さっさとこの呪いを祓って、元の世界へと戻るべきだ。

 ポケットから取り出した中身の無くなったパッケージを握りつぶしながら、桂川は少し離れたところにある踏切を見つめていた。

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