死を呼ぶ魔の踏切(3)
桂川ハルヒの弟、桂川ユウキが姿を消したのは三日前のことだった。
その名前からして二階堂には察しがついていたが、桂川ユウキというのは二階堂も知る陰陽師の桂川だった。桂川ユウキは悪霊祓い依頼を受けて、三日前の夜に家を出たきり連絡が取れなくなっているのだという。
桂川ユウキが請け負った依頼内容。それは姉のハルヒも知らなかった。内容だけではない、依頼人も知らなければ、どのようにしてその依頼がユウキに持ち込まれたのかも知らなかった。
「探偵には持って来いの依頼だろう、二階堂」
「馬鹿言うな、恵比寿。これはかなり面倒な依頼だぞ。桂川クラスの陰陽師が巻き込まれているんだ、ただごとじゃない。あんたも陰陽師なんだろ、ハルヒさん」
「ええ。愚弟の行方については、私も陰陽の術を使って占いました。しかし、何も結果が出ないのです」
そこまで言って桂川ハルヒは表情を曇らせた。
彼女も相当な陰陽師のように思えた。ただ、今回は身内の事ということもあり、どこか感情的になってしまっている気もした。感情的になれば冷静な判断ができなくなり、術にも斑が出てしまうはずだ。
「それで、魔の踏切っていうのは?」
「弟が残していたメモです。そこに『魔の踏切』と書かれていました」
テーブルの上に桂川ハルヒが一枚の紙を置いた。それはどこにでもあるようなメモ用紙であり、その真中になぐり書きのような文字で魔の踏切という文字が書かれていた。
「あ……」
突然声を上げたのはヒナコだった。その声に他の三人の視線がヒナコに集まる。
「どうかしたのか、ヒナコ」
「先生、ここに目印がついているよ」
「え? どこだ?」
ヒナコがメモの端を指差すが二階堂にはその目印というものが見えなかった。
「ほら、ここだよ。ここ」
二階堂はメガネをかけなおして、じっとメモを見たがやはり何も見えない。
他の二人も二階堂と同じらしく、メモを見ながら首を傾げている。
「なにが書かれているんだい、ヒナコ」
「犬の絵だよ、先生」
「犬?」
二階堂は首を傾げたが、その意味が桂川ハルヒにはわかったらしく、目を大きく見開いていた。
「何か心当たりが?」
「ええ。犬は桂川家に使役する式神です」
そう桂川ハルヒは言うと一枚の紙札をテーブルの上に置いた。その紙札は犬の形に模られており、朱色の筆で何やら読めない文字が書き込まれていた。
「これが式神?」
「ええ。桂川家では、この紙札に式神を宿らせています」
桂川ハルヒは指を組んで何やら小声で呪文を唱えだす。
するとテーブルの上に置かれていた紙札が誰も触っていないのに動き始めた。そして、手のひらサイズの小さな犬に変化する。毛がふさふさの白い犬だった。
その犬はメモの周りをウロウロとした後、先ほどヒナコが指した犬の絵が描かれているといった場所の匂いをしきりに嗅いでいた。
「わかりました」
「え?」
「弟の居場所です」
「そうか。じゃあ、探偵の出番は……」
「いえ。二階堂さんには一緒に来ていただきたいです。ヒナコちゃんも」
「え?」
桂川ハルヒの言葉に二階堂とヒナコは顔を見合わせた。
「あんた、最初から巻き込むつもりだったんだな」
「え?」
今度は恵比寿が声を上げた。
「本当にとんでもない姉弟だよ。俺はヒナコの名前を教えた覚えはない。最初から知っていたんだろ」
「やっぱりあなたは頼れる探偵さんなのね。私は以前からあなたたちのことを知っていたのよ。ヒナコちゃんには会ったこともあるわ。覚えてはいないだろうけれど」
寂しそうに笑った桂川ハルヒは立ち上がると、二階堂の手を握った。
「私には、あなたしか頼れる人がいないの」
その目はしっかりと二階堂の目を見つめていた。




